人事の監査、できていますか?今注目の『人事オーディット』とは

「人事制度を見直したのに、なぜ社員のモチベーションが上がらないのか?」「経営層から人的資本経営の推進を求められているが、何から手をつけていいかわからない……」

もしあなたがこのような悩みを抱えているなら、問題は制度の設計ではなく、現状把握の不足かもしれません。多くの企業が人事制度改革で失敗する理由は、「何が問題なのか」を客観的に診断せずに改革に着手してしまうからです。

人事オーディットは、人事制度の設計から運用まで、あらゆる角度から現状を可視化し、真の課題を特定する診断手法です。人事オーディットを活用することで、感覚的な改革から脱却し、データに基づいた戦略的な人事施策を実現できます。人事オーディットの導入は、経営層への説明責任を果たし、現場からの信頼を勝ち取るための第一歩となります。そんな人事オーディットによる人事部門への変革の道筋を、このコラムで詳しく解説します。

この記事はこんな方におすすめです!

  • 中堅〜大企業の人事部長、人事企画責任者、経営企画室長
  • 経営層からの「人的資本経営」や「人事制度改革」へのプレッシャーに悩んでいる人事担当者
  • 人事制度の“何が問題か”を、客観的に可視化したいと考えている方

目次

1.なぜ「人事制度の見直し」だけではうまくいかないのか?

人事制度の見直しは、しばしば企業改革の一環として取り上げられますが、単に制度を変更するだけでは期待した効果を得られないことが多いです。組織全体のパフォーマンス向上が実現するためには、制度の見直しに加えて、運用の改善や組織全体の課題を明確にしなければなりません。

1-1.社員の不満は"設計"ではなく"運用"に潜む

多くの企業が人事制度改革に挑戦しながらも、期待していた成果を得られずに悩んでいます。その理由の一つが、制度の設計にばかり注目し、実際の運用における課題を見落としているからです。

実際の現場では、どんなに完璧な人事制度を設計しても、管理職の評価スキルが不足していたり、評価基準の解釈にばらつきがあったりすることで、制度本来の目的が達成されないケースが頻発しています。また、制度変更の意図が現場に正しく伝わらず、従来の慣行がそのまま継続されることも珍しくありません。

人事制度の改革が失敗する最大の要因は、制度そのものの問題ではなく、組織全体での制度運用における一貫性や継続性の欠如にあります。制度設計の段階で運用面の課題を想定し、事前に対策を講じることが成功の鍵となるのです。

1-2.「組織課題の特定」ができていない人事改革は空回りする

人事制度改革を進める際、多くの企業が「何となく現状に不満がある」という漠然とした理由で改革に着手してしまいます。しかし、具体的にどこに問題があるのか、何を改善すべきなのかが明確でないまま改革を進めても、思うような成果は得られません。

成功する人事改革には、現状の正確な把握と課題の特定が不可欠です。人事データの分析、従業員満足度調査、管理職へのヒアリングなど、多角的な視点から現在の人事制度と運用の実態を客観的に評価する必要があります。

課題の特定ができていない人事改革は、まるで病気の診断をせずに薬を処方するようなものです。症状は改善されず、時には副作用によって状況が悪化することさえあります。改革の第一歩は、徹底的な現状分析による課題の特定から始まるのです。

1-3.日本企業特有の課題:人事データの属人化という「見えない壁」

日本企業が人事改革で苦戦する背景には、欧米企業と比較して人事データの蓄積・活用が大幅に遅れているという構造的な問題があります。

総務省の調査では、日本企業の50%以上がデジタル化を「未実施」と回答しており、人事領域においてはこの遅れがさらに深刻です。多くの企業で人事業務が属人化し、以下のような状況が常態化しています。

  • 採用面接の評価が面接官の主観的なメモに依存
  • 昇進・昇格の判断基準が明文化されておらず、「慣例」で決定
  • 退職理由が体系的に収集・分析されていない
  • 人材育成の効果測定が感覚的な評価にとどまる
  • 労務管理に関するチェック項目が統一されていない など

このような状況では、組織の現状把握が困難で、人事制度改革を行っても「改革前後で何が変わったのか」を客観的に測定することができません。結果として、改革の効果が見えないまま時間とコストだけが消費され、現場から「改革疲れ」の声が上がることになります。

人事オーディットは、まさにこの「データの見える化」から始まる診断手法です。属人化された情報を体系的に整理し、定量的な分析が可能な状態を作り出すことで、初めて真の課題が浮き彫りになります。改革の流れを立案する前に、まず現状を客観的に公開し、組織全体で共有することが重要なのです。

戦略的な人事改革を始めるための第一歩は、まず自社の現状を正確に把握することです。しかし、多くの企業では基本的なデータすら整備されていないのが実情です。無料の診断ツールやガイドを活用してセルフチェックを試みても、そもそものデータがなければ適切な監査も解説もできません。

2.戦略人事に必要な『人事オーディット』とは何か?

人事オーディットという言葉、あまり耳慣れないですよね。人事オーディットは日本においてはあまりなじみのない言葉ですが、海外の人事領域ではすでに一般的な手法として活用されています。特に欧米企業では、戦略人事の一環として、そして人事の健全性を担保する監査的なアプローチとして、人事オーディットを定期的に実施しています。

2-1.人事オーディット=人事の"棚卸し"と"外部診断"のこと

人事オーディットとは、企業の人事制度や人事業務全般について、客観的な視点から現状を評価し、課題を特定する包括的な診断手法です。この解説ガイドでは、人事戦略の立案から実施まで、体系的な改革の流れを詳しく公開します。従来の人事制度見直しが制度設計中心だったのに対し、人事オーディットは制度の運用実態、人事データの整合性、業務プロセスの効率性など、人事領域全体を対象とした幅広い評価を行います。

具体的には、人事制度の設計と運用の両面から評価を実施し、人事データの分析を通じて定量的な課題を把握します。また、従業員や管理職へのインタビューを通じて、制度に対する認知度や満足度などの定性的な情報も収集します。このプロセスを通じて、人事改革の第一歩となる重要な項目を特定し、チェックリストとして整理します。

人事オーディットの最大の特徴は、企業内部の視点だけでなく、外部の専門家による客観的な監査を加えることです。これにより、企業が気づかなかった課題の発見や、業界標準との比較による改善点の特定が可能になります。無料の診断ツールでは把握しきれない深層的な組織課題まで明らかにし、戦略的な人事改革を始めるための確実な基盤を構築します。

2-2.現状把握だけでなく、人事業務全体の「整合性・健全性」を評価

人事オーディットでは、人事制度単体の評価にとどまらず、人事業務全体のつながりや整合性を重視して評価を行います。採用から配置、育成、評価、処遇、退職まで、一連の人事業務がどのように連携し、企業の経営戦略実現に貢献しているかを総合的に診断します。この過程では、労務管理の観点からもチェック項目を設定し、コンプライアンスと戦略的価値の両面を評価します。

例えば、人材育成制度が充実していても、その成果が適切に人事評価に反映されていなければ、従業員のモチベーション向上にはつながりません。また、優秀な人材を採用できても、適切な配置や育成が行われなければ、その人材の能力は十分に発揮されないでしょう。組織内での人事業務の流れを体系的に監査することで、こうした連携不足を明確にします。

オーディットでは、こうした人事業務間の連携や整合性を詳細に分析し、全体最適の観点から改善提案を行います。これにより、個別の制度改善では解決できない根本的な課題への対処が可能になります。経営層への解説資料として活用できる包括的なガイドを作成し、現状把握から改革実施までの全体像を公開することで、組織全体での理解と協力を得ることができます。

3.人事監査と何が違う?人事オーディットの特徴を解説!

人事監査と人事オーディット、いったい何が違うのでしょうか。実は、その目的とアプローチには明確な違いがあるのです。

3-1.「人事監査」と「人事オーディット」の違いと共通点

人事監査と人事オーディットは、どちらも人事領域の現状を客観的に評価する点では共通していますが、その目的やアプローチには違いがあります。

人事監査は主にコンプライアンスの観点から、法令遵守や規程の遵守状況を中心にチェックします。労働基準法の遵守、就業規則の適用状況、給与計算の正確性など、主に法的リスクの回避を目的とした評価が中心となります。これにより、企業は法的なトラブルを未然に防ぎ、リスクマネジメントを強化することができます。

一方、人事オーディットはコンプライアンスチェックも含みながら、より経営戦略的な視点から人事制度の有効性や効率性を評価します。現在の人事制度が企業の経営戦略実現にどの程度貢献しているか、人材の能力開発や組織力向上にどのような効果をもたらしているかなど、経営戦略との整合性を重視した評価を行います。これにより、企業はタレントマネジメントやパフォーマンス向上を図ることができます。

また、人事監査が過去の実績や現状の確認に焦点を当てるのに対し、人事オーディットは現状分析を踏まえた将来への改善提案まで含む点も大きな違いです。単なるチェック機能にとどまらず、組織の持続的成長を支援する戦略的なツールとしての性格を持っています。これにより、企業は人事改革や組織開発のための具体的なアクションプランを策定し、競争力を高めることができます。

4.どんな企業に「人事オーディット」が必要か?

人事オーディットは、企業が持つ潜在的な人事リスクを洗い出すための手段です。人事オーディットが必要な企業の特徴とは何でしょうか。

4-1.メンバーシップ型からジョブ型雇用への移行期にある企業

日本企業では過去、終身雇用と年功序列を軸としたメンバーシップ型雇用が主流でした。しかし近年、グローバル競争の激化や技術革新に対応するため、職務に基づく「ジョブ型雇用」への転換が進んでいます。政府もジョブ型雇用の普及を後押ししており、2024 年にはジョブ型人事指針の策定 や推進会議の開催 といっ
た動きがみられます。

ジョブ型雇用への転換では、従来のメンバーシップ型とは異なり、役割や成果に応じて一人ひとりの職務内容(ジョブディスクリプション:JD)を明確に定義し、評価・報酬を個別最適化する必要があります。そのためには、各職務に求められるスキルや責任範囲を詳細に洗い出し、既存の職務と照合したうえで新
たなJD を作成・整備しなければなりません。

人事オーディットはこのプロセス全体を俯瞰的に評価し、職務定義の漏れや重複、報酬格差、法令遵守リスクなどを早期に発見します。また、組織横断で統一した職務基準が整備されているかを確認することで、部署間・個人間での評価のブレを防ぎ、公平かつ透明性の高い制度設計を支える基盤を構築します。人事オーディットは、メンバーシップ型からジョブ型雇用への移行期におけるリスクや課題を事前に発見し、給与体系の円滑な移行のために欠かせないファーストステップなのです。

4-2.社内で次のような兆候がある場合は実施を要検討

他にも、人事オーディットの導入を検討すべき企業には、いくつかの共通した兆候があります。

まず、従業員満足度調査で人事制度への不満が多く寄せられる場合です。特に、評価の公平性や処遇への不満、キャリア開発機会の不足などが頻繁に指摘される企業では、制度の見直しが急務です。

また、人材の離職率が高い企業も注意が必要です。採用コストをかけて獲得した人材が定着せず、競合他社に転職してしまうケースが続く場合は、人事制度に根本的な問題がある可能性があります。

経営層からの人事への期待値と、実際の人事部門の成果にギャップがある場合も、人事オーディットの対象となります。「人事制度を改革したのに、なぜ組織力が向上しないのか」「投資した育成費用に見合う成果が出ていない」といった経営層の声が聞かれる場合は、現状の客観的な診断が必要です。

さらに、事業拡大や組織再編を控えている企業では、現在の人事制度が将来の組織規模や事業形態に適応できるかを事前に評価しておくことが重要です。M&Aや海外展開などの大きな変化を予定している企業では、人事オーディットによる事前診断が成功の鍵となります。

5.人事オーディットを実施すると社内で何が変わるのか?

人事オーディットを実施することで、これまで漠然と行われていた人事施策が、組織全体のビジョンや戦略に連動します。これにより、人事部門は単なる管理部門ではなく、経営戦略の実現を支える重要な存在として認識されるようになります。

5-1.経営に「人事の価値」を説明できるようになる

人事オーディットの最大のメリットの一つは、人事部門の活動が経営に与える価値を数値化し、客観的に説明できるようになることです。従来、人事業務の成果は定性的な評価にとどまることが多く、経営層に対して具体的な貢献度を示すことが困難でした。

人事オーディットでは、人事制度の運用状況を定量的に分析し、従業員の生産性向上、離職率の低下、育成効果の測定など、経営指標との関連性を明確にします。これにより、人事部門は経営会議において、具体的なデータに基づいた報告と改善提案を行うことができるようになります。

例えば、「新しい評価制度導入により、従業員エンゲージメントが15%向上し、それに伴い生産性が8%改善した」といった具体的な成果を示すことで、人事投資の効果を経営層に理解してもらえます。これは人事部門の地位向上にもつながり、より戦略的な人事施策の実行が可能になります。

5-2.人事施策が「点」から「線」へ変わる

人事オーディットの最大のメリットの一つは、人事部門の活動が経営に与える価値を数値化し、客観的に説明できるようになることです。従来、人事業務の成果は定性的な評価にとどまることが多く、経営層に対して具体的な貢献度を示すことが困難でした。

人事オーディットでは、人事制度の運用状況を定量的に分析し、従業員の生産性向上、離職率の低下、育成効果の測定など、経営指標との関連性を明確にします。これにより、人事部門は経営会議において、具体的なデータに基づいた報告と改善提案を行うことができるようになります。

例えば、「新しい評価制度導入により、従業員エンゲージメントが15%向上し、それに伴い生産性が8%改善した」といった具体的な成果を示すことで、人事投資の効果を経営層に理解してもらえます。これは人事部門の地位向上にもつながり、より戦略的な人事施策の実行が可能になります。

6.人事オーディットの導入方法は?ステップと注意点

人事オーディットを実践的に導入するためには、具体的なステップを踏むことが重要です。

6-1.人事オーディット導入の流れ

人事オーディットの導入には、計画的なアプローチが必要です。

①現状把握
まず、現状の把握から始めます。人事制度の設計書類、運用マニュアル、過去の人事データなど、関連資料を網羅的に収集し、制度の全体像を整理します。この段階では、無料で利用できる診断ツールやチェックリストを活用することで、効率的に現状分析を始めることができます。

②定量分析
次に、定量分析を実施します。人事データベースから従業員の配置、評価、昇進、離職などのデータを抽出し、統計的な分析を行います。同時に、業界平均や同規模企業との比較分析も実施し、自社の位置づけを客観的に把握します。定性分析では、従業員へのアンケート調査や管理職へのインタビューを通じて、制度に対する認知度や満足度、運用上の課題などを収集します。この段階では、現場の生の声を丁寧に聞き取ることが重要です。

③課題の洗い出し
分析結果をもとに、課題の優先順位を決定し、改善提案を策定します。短期的に対応可能な課題と中長期的な取り組みが必要な課題を区別し、実行可能な改善計画を立案します。

④改善施策の実施と効果測定
最後に、改善施策の実施と効果測定を行います。定期的なモニタリングを通じて施策の効果を確認し、必要に応じて修正を加えながら継続的な改善を図ります。

6-2.よくある質問(Q&A)

Q: 人事オーディットの実施期間はどの程度必要ですか?
A: 企業規模や対象範囲にもよりますが、一般的には3~6か月程度を要します。現状分析に1~2か月、課題の特定と改善提案の策定に1~2か月、報告書作成と経営層への報告に1か月程度が目安となります。

Q: 人事オーディットを行う場合、外部コンサルタントを活用すべきでしょうか?
A: 客観性と専門性の観点から、外部専門家の活用をおすすめします。第三者が入ることにより、公平な目線で社内だけでは気づきにくい課題の発見や、業界標準との比較分析において、外部の視点は非常に有効です。

Q: 人事オーディットの実施コストはどの程度見込んでおけばよいでしょうか?
A: 企業規模や実施範囲により大きく異なりますので、実施の際は、まずは外部の専門家に相談することをお勧めします。ただし、改善による効果を考慮すると、十分に投資対効果の高い取り組みといえます。カルチャリアでも人事オーディットを実施いたしますので、お気軽にご相談ください。

Q: 人事オーディットを実施することで、従業員への影響や負担はありますか?
A: アンケート調査やインタビューへの協力は必要ですが、日常業務への大きな影響はありません。むしろ、自分たちの声が制度改善に反映されることで、従業員のエンゲージメント向上につながることが多いです。

7.まとめ

いかがでしたか?今回は、人事オーディットについて解説しました。

どんなに理想的な人事制度を設計しても、現場で適切に運用されなければ期待した効果は得られません。人事オーディットは、人事制度の設計と運用の両面から客観的に評価し、実態に即した改善を行うための重要な診断ツールです。

感覚や推測ではなく、データと事実に基づいた客観的な診断により、組織の中で本当に変えるべき箇所を特定することが改革成功の鍵となります。限られた経営資源を効果的に活用し、最大の改善効果を得るために、まずは人事オーディットで現状を正しく知ることから始めましょう。

人事部門が組織内で真に信頼される存在になるためには、自らの活動の価値を客観的に示すことが必要です。人事オーディットによる現状の可視化は、経営層からは戦略パートナーとして、現場からは頼れるサポーターとして認識される絶好の機会となります。継続的な人事オーディットの実施により、組織の人材力は着実に向上し、企業の持続的成長を支える強固な基盤が構築されます。

人事オーディットを通じて、企業はより効果的な人事評価制度や人材育成プログラムを設計し、組織全体のパフォーマンスを向上させることが可能です。これにより、社員の満足度が高まり、企業の競争力が強化されるでしょう。

人事オーディットならカルチャリアへご相談ください

カルチャリアでは、人事オーディットに関する資料をご提供しています。無料でダウンロードできますので、ぜひご活用ください。

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