アメリカの人事制度の特徴とは?日本との違いや背景を解説

目次

アメリカと日本は、文化や法制度、労働市場などの面で性質が異なる国であり、そのために両国の人事制度にも大きな違いが見られます。この記事では、アメリカの人事制度の特徴や、日本の人事制度との比較、制度設計のコツなどを紹介していきます。

1.人事制度の違いと文化的背景

➀ なぜアメリカと日本の人事制度の比較が重要なのか

アメリカと日本の人事制度を比較・理解することは、グローバルビジネスを展開する上で、大きな影響を与えます。特に、優秀な人材の獲得と維持は、企業の成長と競争力の向上に貢献しますが、その反面、人事制度が則していないと、人材は流出してしまいます。市場競争を勝ち抜いていくためには、国籍や社会的背景などを問わず、優秀で多様な人材を獲得し、維持・育成していかなければなりません。そのため、アメリカと日本の人事制度を比較し、理解することは、異文化コミュニケーションやコンプライアンスなど、グローバル企業や組織にとって非常に価値のあることなのです。

➁ アメリカと日本の文化的背景の違いと人事制度への影響

アメリカと日本の文化的背景の違いは、両国の人事制度に大きな影響を与えます。よく言われる両国の文化的背景の一例として、アメリカは個人主義、日本は集団主義が挙げられます。個人主義なアメリカと、集団主義な日本の文化は、労働契約や人事評価、労働組合、労使関係などの側面で全く異なるアプローチをすることになるのです。そのため、アメリカと日本の文化的要素を考慮しながら、人事制度設計をすることは、グローバルビジネスを実践していくにあたり、非常に重要になってきます。

2.採用プロセスの違いとその背景

➀ アメリカの採用プロセス

  1. 応募・書類選考:まずオンラインで応募書類を提出することから採用プロセスが始まります。レジュメ(履歴書)とカバーレターが一般的です。

  2. 面接(複数回):人事や担当者、マネージャーとの面接が設定されます。面接は対面、オンライン面接などで行われます。企業や職種によっては、最終面接後に、追加で面接が行われることもあります。

  3. スキル評価と適性検査:特定の職種や業界によっては、スキル評価や適性検査が行われることがあります(例えば、IT系職種ではプログラミングテストなど)。

  4. バックグラウンドチェック:選考が進行すると、応募者のバックグラウンドチェックが行われることが一般的です。これは過去の職歴や学歴、犯罪歴の確認などを含みます。

  5. オファー:選考が成功すると、企業から雇用オファーが提示されます。候補者はオファーを受け入れるかどうかを検討し、応じた場合、内定という流れになります。

➁ 日本の採用プロセス

  1. 応募・書類選考:履歴書と職務経歴書の提出が一般的です。転職サイトなどオンラインで応募しても、会社によっては紙ベースの履歴書・職務経歴書の提出が求められる場合もあります。

  2. 筆記試験:中途採用の場合、筆記試験を行う会社は限られていますが、新卒入社の場合は筆記試験を実施する会社は多くあります。

  3. 面接(1〜3回):担当者や役職者、人事担当者、経営陣などによる面接が行われます。会社によって面接の回数はさまざまです。

  4. 内定:選考が終了すると、内定が提示されます。内定を受け入れた場合、雇用契約が締結されます。

アメリカと日本における採用プロセスの大きな違いの一つが内定とオファーの部分です。オファーは、日本の内定とは異なり、企業が採用や契約にあたって、給与や雇用形態、勤務スタイルなど各種条件を提示することであり、候補者はこの段階でも給与などの諸条件に関する交渉をすることができます。日本は企業から候補者に最終選考の合格通知がされ、企業側に採用の意思があることを伝える内定を出し、それに対し候補者が承諾した場合、雇用契約になります。

また、日本にはあまり馴染みのないバックグラウンドチェックという制度がアメリカには存在します。バックグランドチェックとは、雇用主が従業員を適切に評価し、組織や社会全体の安全性と信頼性を確保するために、学歴や職歴、過去の犯罪歴などを調査・確認し、書類や面接時の内容に偽りがないかをチェックする制度です。近年、日本でもバックグラウンドチェックに似ている、リファレンスチェックを行う企業が増えてきました。リファレンスチェックとは、採用候補者の人柄や評価、業務を遂行するうえでの能力、前職の退職理由などを、過去一緒に働いたことのある第三者に確認する制度のことです。

➂ 新卒採用の違い

アメリカにおいて新卒一括採用が一般的でない理由として、教育制度、労働市場の多様性、採用のタイミングなどがあります。一例として、日本の慣習では学校を卒業する前に就職先を決めます。しかし、アメリカでは学校を卒業するタイミングが人によって異なり、学業を終えてから就職活動を行うことが一般的であるため、新卒者を対象にした一括採用を行うことは難しいのです。

➃ ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用

アメリカでは「ジョブ型雇用」が一般的です。ジョブ型雇用とは、仕事に対して人を割り当てていくため、業務の内容に基づいて必要な経験・スキルを持つ人材を採用する手法であり、高い専門性が求められます。一方、「メンバーシップ型雇用」は日本で採用されている雇用形式です。終身雇用制度を背景に、仕事内容や勤務地を限定せず、会社の方針にマッチする人材を採用します。新卒入社した社員は数年単位で営業やクリエイティブ職など、さまざまな部署を経験しながら、定年まで勤め上げる事が理想とされます。

3.給与制度の違い

➀ アメリカの給与制度は成果主義に基づく報酬

成果主義のアメリカでは、従業員の成果を評価し報酬として還元する仕組みであり、給与は従業員の業績や成果に応じて決定されるよう、報酬制度が設計されています。通常、基本給に加えて成果に基づくボーナスやインセンティブが支給され、成果が優れているほど、報酬も増加する傾向があります。加えて、個別に明確な業績目標が設定されるため、一定期間ごとに従業員のパフォーマンスを評価、達成度に基づいて報酬が計算されます。このような仕組みから、従業員は自身のパフォーマンスを向上させ、成果を最大化しようと努力します。これにより、企業全体の生産性向上が見込まれるのです。

➁ 日本の給与制度は、終身雇用と年功序列に基づく報酬

日本の給与制度は、終身雇用制度と深い繋がりがあります。従業員と企業との間で安定的な雇用契約を結び、長期的な雇用を前提としているため、一度雇用されたら、基本的に定年までその企業で働き、会社に貢献することを期待されます。そのため、長期的なキャリアに基づいて賃金が設定されているため、従業員が長く勤務し、年を重ねるにつれて、成果に関わらず給与と役職が自動的に上昇します。

➂ 退職制度の差異

アメリカの退職制度:401kプラン、社会保障など

アメリカには退職金という概念が存在しないため、その代わりとして401kプランがあります。401kプランとは、個人の退職資産を積み立てるための税制優遇型の投資プランです。例えば自分の給与から一定額を控除することで所得税を軽減し、年金資産を積み立てやすくなるだけでなく、資産が積み立てられる間、利益やキャピタルゲインに対する税金も免除されます。このように401kプランは個人が将来に備えて資産を積み立てるための有力なツールです。また、社会保障制度として、定年退職者に対して支給される年金給付社会保障年金(Social Security Retirement Benefits)や退職者に提供される公的な医療保険プログラムであるメディケア(Medicare)、社会保障年金とは異なり、受給者の所得や資産に基づいて支給されるサプリメンタルセキュリティインカム(Supplemental Security Income、SSI)などがあります。

日本の退職制度:厚生年金、企業年金など

日本では、公的な年金制度が整備されており、国から支給される国民年金や会社の組合や労働組合などが運営する共済組合が運営する厚生年金制度があります。これらの制度に加入した労働者は、一定の条件を満たすと公的な年金を受け取ることができます。また、日本企業の多くは、従業員に対して企業年金を提供しています。企業年金とは会社や個人が公的年金に任意で加入する私的年金です。一般的に給与に応じてお金が積み立てられ、定年退職時に給付金として支給されるものです。

4.異文化コミュニケーションにおける課題と解決策

ここでは、アメリカと日本の企業研修の違いについて見ていきましょう。研修スタイルも、アメリカ・日本それぞれの文化や慣習に根ざしていることから、研修の制度設計が全く異なります。

アメリカの企業文化は個人主義と競争が強調されているため、研修プログラムは個々の能力向上や成果に焦点が当てられます。自己啓発や自己管理が奨励され、自己効力感の向上が重要視されます。一方、日本企業では一般的に組織に対する忠誠心や協力精神が重要視されるため、研修プログラムは、社内文化や価値観の浸透を強化、上司や先輩への尊敬が反映されるような研修の制度設計がされます。

研修制度設計の違いに関する事例

アメリカと日本の研修の違いに関する事例をご紹介します。アメリカの企業では、より短期間で効率的なトレーニングプログラムが一般的です。eラーニングやセミナー、ワークショップなど、多様な形式の研修が提供されます。また、日本とは逆に新入社員以上に管理職向けの研修が多く行われます。

日本の企業では、「研修」といえば新卒入社した新入社員向けのトレーニングに時間やコストをかけることが一般的です。新入社員は入社後に数か月にわたり、対面の座学方式でビジネスマナーや社会人としてのマインドセット、コミュニケーション、ロールプレイングなどの研修プログラムを受けます。

5.評価制度の違い

アメリカと日本の評価制度の違いについてです。アメリカでは個人の成果や能力が重視され、報酬に連動した評価が一般的です。一方、日本では協力と忠誠心、年功序列などの日本独自の制度設計が評価に影響を与える傾向にあります。

➀ アメリカの評価制度

アメリカの企業文化は個人主義と成果主義が強調されており、制度設計もそれに準じています。従業員は個人のパフォーマンスと能力、成果に基づいて評価されます。また、従業員には明確な業績目標が設定され、一定期間ごとにパフォーマンス評価が行われます。これらの評価は報酬に連動しており、優れたパフォーマンスは昇給や報酬の増加につながります。

➁ 日本の評価制度

日本の企業文化は組織に協力的であることや忠誠心が求められ、評価制度も集団の協力やチームプレイを重視します。従業員は組織全体の成功に貢献することが期待されます。日本の多くの企業では、年功序列制度が採用されており、従業員は年齢や経験に基づいて評価され、昇給や昇進が行われます。忠誠心や社歴の長さが評価の要因となります。また、従業員は転勤や他部署への異動が一般的で、評価制度においても組織内での異動が考慮される場合もあります。

このように、企業は国の文化や習慣に合わせて制度設計し、従業員のモチベーションや成長をサポートすることが重要です。

6.労務管理の違い

アメリカと日本、どちらの国でも、労働組合は労働者の代表として動き、労働条件や労働環境などの向上と公平な取り決めを追求します。しかし、組織文化の違いから両国の労働組合の役割には違いがあります。

➀ アメリカの労働組合

アメリカの労働組合は、労働者の権利を擁護し、賃金引き上げや福利厚生の改善、安定を目指し、労働条件の向上や公平な給与の確保ができるように活動をしていきます。よく海外ニュースでも取り上げられますが、ストライキや交渉を通じて、労働者の利益を守ります。

➁ 日本の労働組合

日本の労働組合は、労使協力を重視し、労使双方が協力して生産性を向上させ、安定的な労働関係を築くことを目指します。これにより、ストライキや労働争議は相対的に少なく、労使双方が対話での解決を図ろうとします。2023年8月末に、大手デパートでストライキが行われましたが、当該業界では61年ぶりの大規模なストライキということで、大きく注目されました。また、日本の労働組合は、長期的な雇用と安定感を重視し職場内トレーニングや技能の向上を奨励し、組合員のキャリアをサポートします。

このように日本の労働組合は安定的な労働関係と労使協力を重視し、アメリカの労働組合は労働者の権利擁護と経済的な要求を重視する傾向があります。

➂ 雇用の安定性

アメリカと日本では、雇用制度についても大きな違いがあります。

アメリカの雇用制度
アメリカの労働市場は流動的です。プロジェクトベースや期間限定で雇用契約が行われることも一般的です。そのため、従業員は自己啓発や自己管理が奨励され、安定感よりもキャリアの発展が重視されます。また、アメリカの労働法は雇用主に対して比較的柔軟な側面があります。なぜなら、アメリカのビジネス環境は変化が速いため、企業は競争力を維持するためにリストラなどの方法で労働力を柔軟に調整する必要があるからです。一方で、リストラには一定の法的制約も存在します。例えば、労働者の差別や不当解雇に対する法的保護があり、これらの規制を遵守しない場合、雇用主は法的な問題に直面することがあります。

日本の雇用制度
一方、日本では、終身雇用が一般的であり、従業員は同じ会社に長期間勤務することを期待されます。これにより、雇用の安定感が高まり、企業への忠誠心が根付きます。反面、同じ会社で長期的な勤務を推奨する終身雇用制度が主流であるために、日本の労働市場は流動性が低いといえます。転職回数が多いと、こらえ性がない、またすぐに転職してしまうだろうと判断され、書類選考の段階で不採用になるケースもあります。

このように日本では終身雇用制度によって雇用の安定がありますが、アメリカでは労働市場の流動性が高いため、企業は組織文化の違いを理解し、労働条件やキャリア戦略などを計画する際に考慮する必要があります。

7.まとめ

アメリカと日本の人事制度は、例えばアメリカは個人主義、日本は集団主義というような、文化的背景や商習慣の違いが大きな影響を与えています。グローバルで勝ち抜くためには、言語の違いだけではなく文化や商習慣の違いを理解することが大切です。日本の制度をそのまま現地で展開しても、先のような違いからグローバル事業はうまく事が進まなくなります。現地の文化や習慣に則した明瞭かつ公平な人事基盤を築くことが、グローバルで成功するための秘訣です。

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