なぜ日本企業の女性活躍は一向に進まないのか?Part2:経営戦略のカギとなる女性活躍

目次

近年、企業が取り組む女性活躍推進は単なる社会的責任だけではなく、経営戦略の重要な要素として位置付けられています。女性が組織内で活躍することは、多様性を尊重し、イノベーションを促進することに繋がります。政府が旗を振り、女性の活躍を推進しているにもかかわらず、なぜ日本では女性活躍が一向に進まないのでしょうか。ここでは、女性活躍・活用が進まない理由や女性活用が滞ることによって起こる弊害について、2回に分けて考えていきます。第2回は、女性活躍と経営戦略についてお送りします。

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1.世界から取り残される日本

前回のコラムでもご紹介したように、日本はジェンダー・ギャップ指数において、146 国中125位であり、先進国中では最下位という立場にあります。特に「経済」「政治」分野において格差が著しいという結果が出ていますが、これは女性活用やダイバーシティ推進という掛け声があっても、今だに出産育児が理由で受ける不利な評価や、長時間労働が一般的な環境で、女性は男性の代わりに家事や育児を担当せざるを得ない厳しい現実に向き合えていないと言えるのではないでしょうか。

①非正規雇用率の高い日本人女性

日本女性の就業状況の特徴として、L字カーブ現象と呼ばれる女性の年齢階級別正規雇用比率は25〜29歳の58.7%をピークに低下します。これは学校卒業のタイミングで女性の労働参加率が一時期上昇するものの、出産や子育てを機に、多くの女性が職場から離れることを示しているものであり、その後の再就職やキャリア形成に課題を抱えるケースがあります。現実問題、1413万人(53.6%、2021年内閣府年次経済財政報告より)の女性が非正規雇用で働いており、そのなかでも、25~54歳日本人女性のパートタイム労働者比率は他の先進国と比較すると高めに推移しています。

②女性が非正規雇用を選ぶ理由 ~疲弊する日本の子育て世代~

女性が非正規雇用を選ぶ理由として、正規雇用に比べて非正規雇用は待遇や安定性が不十分ですが、結婚や出産によるライフイベントや育児や家事への負担、フルタイムでの働き方への制約などの理由で、非正規雇用の柔軟性や時間の調整が容易な働き方を選択しているのです。

男女共同参画局によると、男女別に見た生活時間において、日本では、諸外国と比較すると有償労働時間が長いという結果が出ています。特に男性の有償労働時間が極端に長いため、無償労働と言われる家庭内での家事や育児が女性に偏るというのは周知のとおりです。日本人は男女ともに有償・無償をあわせた総労働時間が長く、限界ギリギリまで働いています。

今だに長時間勤務が良しとされる「いることが仕事」が消えない日本。長時間勤務は生産性や忠誠心の表れとされています。しかし、このような環境下では、自分の家庭をマネジメントできません。会社には自分の代わりとなる人はいます。しかし、家族の在り方が大きく変わったこの時代、家庭内をオペレーションする代替手段はありますが、マネジメントする人材の代わりはいないのです。

③日本と諸外国のパートタイム労働の考え方の違い

日本では、かつては長時間労働やフルタイム労働が一般的であり、パートタイム労働は副業や家事の合間に行うものとして、主に女性が中心になって行っていました。一方、諸外国では、職業やライフスタイルの多様性を尊重し、男女問わずパートタイムでの労働が広く受け入れられています。

また、諸外国ではパートタイム労働者もフルタイム労働者と同等の扱いであり、一定の労働条件や福利厚生が提供されます。これに対して、日本では非正規雇用やパートタイム労働者はキャリアを軽視される傾向があり、待遇や雇用保障が不十分な場合が多いのが現状です。

2.女性活躍が生み出すもの

①女性活躍が企業にもたらすプラス要素

内閣府男女共同参画局の女性活躍に関する基礎データによると、

  • 経営幹部における女性割合が多い企業では、株価パフォーマンスが高い
  • 女性活躍を推進する企業は、ROA(総資産利益率)が高い
  • 女性役員比率が高い企業では、ROE(自己資本利益率)とEBIマージンが顕著に高い

という傾向が見られます。

女性のリーダーシップが組織内のイノベーションを推進し、企業の収益性を向上させているのです。このように、女性の存在は企業の継続的な成長と競争力を高め、持続可能な価値を創造する上で欠かせません。

総じて、女性が経営に参画することは、単なる多様性の促進だけでなく、企業の業績向上や持続可能な成長を支える重要な要素であることが示されています。そのため、女性活躍を推進する取り組みは、企業の経営戦略において不可欠なものなのです。

②女性が意思決定権を持つことの重要さ

女性が組織において意思決定権を持つことは、上記に記したように、女性のリーダーシップが組織内のイノベーションを推進し、多様な視点やアプローチが組織に反映されます。これは、自分達の働く環境も自分達が生み出していけることを意味します。

女性がリーダーに就くことで、多様なバックグラウンドを持つ人々のニーズをより理解し、その声を代弁して後継のための制度や環境を整えることができます。これにより、従業員のモチベーションや忠誠心が高まり、組織全体のパフォーマンスが向上します。

また、女性リーダーの存在は後輩たちにとっての重要なロールモデルとなります。彼女たちは、将来の女性リーダーたちに道を示すだけでなく、自信を持ち、自己実現できるような環境を築く手助けをします。彼女たちの存在は、次世代に希望を与え、多様性と平等を尊重する社会や組織を構築するための原動力となります。

③女性が活躍しない・できない企業の行く末

女性活躍が進まない企業は、ESG投資の観点で投資家の信頼を失う可能性があります。ESG投資は環境、社会、ガバナンスの三つの側面を考慮するものです。その中の社会的側面は企業の人権、労働権、労働条件、多様性といった要因を含みます。多様な背景や視点を持つ従業員を雇用し、多様性を尊重する企業は、創造的な問題解決やイノベーションの促進につながると考えられています。

実際、女性活躍を推進し、ジェンダー平等を促進することは、長期的な成長と利益につながるとの研究結果が示されています。ESG投資家は、持続可能な投資とリターンを両立させる機会を探し、女性活躍を含めた社会的側面に注目します。

ESG投資家は、企業の社会的影響や評判に敏感であり、女性活躍が進んでいる企業は、社会的に持続可能であると認識され、投資家からの支持を受けやすくなります。逆に、ジェンダーバイアスや女性の進出を妨げる問題がある企業は、リスクを抱える可能性があります。また、ESG投資家は、法令順守とリスク管理に注意を払うため、女性活躍に関連する法的要件を評価し、それに基づいて投資判断を行うことがあります。

このような理由から、ESG投資家は企業の社会的影響と評判に対し敏感になっています。投資家の信頼を獲得し、企業価値を高めていくためにも、企業は社会的な問題に対処し、持続可能なビジネスモデルを構築する必要があります。この課題を達成できない企業は市場から淘汰されることでしょう。

3.伸び悩む日本の限界。男性標準な社会構造のツケ

①男性には見えていない、女性が生みだす巨大市場

先に女性活躍が企業にもたらすプラス要素として、女性が意思決定にかかわることで企業に利益をもたらすことを紹介しました。しかし、女性が主導する市場の潜在力を見誤る男性たちが未だに存在します。彼らは女性の購買力や社会的影響力を過小評価し、ビジネスの成長機会を逃していることに気付いていません。今後、女性たちのニーズや価値観に焦点を当てないビジネスは、市場での競争で取り残されるリスクがあるため、女性は単なる消費者に留まらず、意思決定者としてますます重要視されているにもかかわらず……です。

女性向けの製品やサービスに対する理解が深まれば、これは新たな市場を開拓する契機となります。例えば、女性がキャリアと家庭の両立を求めるなかで、柔軟な労働環境やワークライフバランスをサポートするような商品が求められています。また、女性の購買力は家庭も大きく関与しており、その影響は単なる個別の商品にとどまらず、家庭全体の生活様式やトレンドにも波及してきます。

今後、ビジネスでの成功を考える上で、経営者や幹部は女性の視点を積極的に取り入れ、ビジネス戦略に反映させるだけでなく、さらにその考えを現場の管理職にも浸透させることが不可欠です。ジェンダーの壁を取り払い、女性が持つ創造力や経済的影響力を最大限に引き出すことで、企業はより持続可能かつ多様性に富んだ未来を築くことができるのです。

②なぜオジサン管理職は価値観を変えられないのか

経営陣が女性活用が進まないことに危機感を持っていたとしても、現場を指揮している管理職に女性活用の重要性が伝わらなければ組織は変わりません。管理職の年配男性が、女性活躍に関する価値観を変えられない理由には次のようなものが挙げられます。

●伝統的な性別役割観念

伝統的な性別役割観念に固執している可能性があり、女性が職場でのリーダーシップや重要な役割を果たすことを受け入れにくいことがあります。

●抵抗感

一部の男性は、女性が活躍することを歓迎しないか、競争相手として受け入れたくないと考え、女性の能力や適性を過小評価します。これは出世競争における不確実性や自己価値感に影響するためです。

●教育や意識の不足

ジェンダー平等やダイバーシティに関する教育や意識が不足していることがあるため、価値観を変えることが難しいのです。

●男性スタンダード社会における無自覚の特権

今でも日本は男性を標準にした社会設計なので、女性から見たら男性優位な構造に変わりありません。長らく続いた男性を標準にした社会の中で、前出のような男女の役割分担が根付いてしまっているため、男性だからというだけで昇進しやすかったり、受験や就職で有利な条件に置かれているという特権を享受していることに気付いていないからです。

今の時代は女性が優遇されている、男性軽視だという男性がいますが、これは男性差別ではありません。いままで世の男性が履いていた下駄が脱げただけのことなのです。女性活躍に関する価値観を変えるためには、教育、意識啓発、組織文化の変革、個別のコーチングやメンタリングなど、多くのアプローチが必要です。また、組織全体での取り組みが重要であり、経営層が積極的に女性活躍をサポートする姿勢を示すことが大切です。

4.「管理職になりたくない」女性が訴えるその理由とは

①昇進すると男性に嫉妬されるから 

株式会社カルチャリアでは、カウンセリングも行っていますが、その中で昇進した女性から「男性からいじめられるから管理職を降りたい」という声を聴く事があります。男性が昇進した女性をねたみ、わざと書類を渡さない、ミーティングに呼ばない、根も葉もない噂を流すなど陰険なやり方で女性を陥れようとするからだといいます。

昇進は限られたポジションを争う競争です。嫉妬する男性は、競う相手が増えることによる焦りだけでなく、自らのアイデンティティや評価が伝統的なジェンダー役割に基づいているため、本人が格下と思っている女性が昇進すること=アイデンティティやプライドを傷つけると感じ、嫉妬を引き起こすのです。

コンサルティングの際に「数人の女性を管理職にするのではなく、一定数の女性を管理職にしないと、その女性は男性に潰されます」と伝えています。いやがらせをうける女性管理職の姿を見てきた後輩陣は、いざ自分に昇進の打診があったら、それを受け入れると思いますか? なかなか状況が変わらないことが残念で仕方ありません。

②昇進時期とライフイベントが重なる

20代後半から30代になると、経験とスキルの蓄積が進み、責任ある役職に昇進するケースが増えます。この時期に新たなチャレンジやプロジェクトに携わり、専門性を深めながらキャリアを発展させることが期待されます。しかし、この時期は男女ともに結婚や家庭の形成など、ライフイベントが重なるタイミングでもあります。

女性は妊娠・出産を機に仕事から一時離れざるを得なくなります。多くの日系企業では、評価基準が業績や業務への貢献度に重きを置いているため、仕事から離れる女性は明らかに不利です。また、産休育休から復帰しても、長時間拘束される男性に代わり、育児や家事をしなければなりません。そのため、ワークライフバランスが保てないなら、代わりの誰かがいる管理職を避け、誰も変わりがいない家庭の運営にリソースを割こうとするのです。

男性の育休が進まない原因の一端もここにあります。男性は仕事に専念し、家庭の責任は女性という伝統的な役割観念が中高年に根強く残っています。会社への貢献度に重きを置いているレガシーな評価制度のため、昇進時期に会社への貢献が強く求められます。それが男性が育休を取りにくくする要因となるのです。

③女性に優しすぎる制度

女性に対する優遇措置や制度が過度になると、逆に女性のキャリアに悪影響を与える可能性があります。

まず、女性が弱い存在であるというステレオタイプが強化されてしまい、女性のリーダーシップの足かせとなります。そして女性の実力や意欲が過小評価され、自身の力を最大限に発揮できない状況になることで、女性の挑戦や成長の機会を制限してしまうおそれがあります。また、男性が差別されたと感じ、男女の対立を生みます。

女性活用のための制度を導入する場合には、バランスを取りながら、女性が平等な機会を持ちつつ、個々の能力や適性に基づいてキャリアを築ける環境の整備が求められます。

④アンコンシャスバイアスが阻む女性活躍

アンコンシャスバイアスとは、無意識の思い込みや先入観を指します。時短勤務を例に挙げてみましょう。もし「普通、産休から復帰した人は時短勤務」、「時短勤務にするのは女性」と頭に思い浮かべたならば、それはアンコンシャスバイアスです。

産休明けだけれど祖父母のサポートがあるからフルタイムで働きたい人もいれば、産休明けではないけれど、小学校に上がる子どものサポートのために時短で働きたい人もいます。時短勤務が必要な男性だっています。人それぞれ事情が違うため、子どものいる女性だけが時短勤務を取得するとは言い切れません。

他にも、

「Aさんは女性だけど仕事ができる人だ」

「Bさんは、小さな子どもがいるからマネージャー職はこなせないだろう」

「今日面接したCさん(28歳女性)、年齢的に妊娠出産しそうだから採用を見送る」

上記のような事を耳にしたことはありませんか? これらもアンコンシャスバイアスと言えます。親切心で、Bさんは子どもがいて大変だから昇進の打診は控えようというのは筋違いです。繰り返しになりますが、状況や事情は人それぞれに違いがあります。マネージャーこそ、〇〇だからとカテゴライズした色眼鏡で判断をせず、一人ひとりと向き合い、マネジメントを行なわなければなりません。

5.ダイバーシティ経営がもたらす効果

ダイバーシティ経営は、多様な背景や視点を持つ人々が集まり、それぞれの独自の経験や観点を活かして企業のパフォーマンスやイノベーションを促進するものであり、女性活用もダイバーシティの一環です。ここではダイバーシティ経営が組織にもたらす効果を4つ挙げていきます。

①イノベーションの促進

多様な背景や視点を持つチームが協力することで、異なるアイディアやアプローチが生まれやすくなります。これがイノベーションを促進し、新しい視点からの問題解決や製品・サービスの開発が可能になります。

②市場への適応

顧客や市場も多様化しているため、ダイバーシティ経営は市場への適応性を高めます。さまざまな文化や価値観に敏感である組織は、異なる顧客層に対して効果的なサービスや製品を提供しやすくなります。

③従業員のモチベーション向上

ダイバーシティ経営が浸透すると、従業員は自身のバックグラウンドやアイデンティティが尊重され、平等な機会が提供されていると感じるようになります。従業員のモチベーションがアップし、従業員エンゲージメントや従業員幸福度の上昇にもつながります。

④優秀な人材の採用や確保

ダイバーシティ経営が進む組織は、幅広い人材層からの採用や優秀な人材の確保がしやすくなります。これにより、組織内で多様なスキルや専門知識を持つ人材が揃い、競争力が向上します。

これらの効果は、組織のダイバーシティ経営が適切に実施され、組織文化や制度が多様性を尊重し、活かす方向に向けられている場合に発揮されます。

6.まとめ

近年の少子化や人材不足、国力低下、伸び悩む消費は、男性標準社会の限界を示唆しています。女性が社会や経済面で活躍できる環境が整備されず、人材不足や国力低下につながっているのは明白です。伝統的な社会構造では、女性の多様な能力やポテンシャルが活かされにくく、現代の労働市場や価値観の変化に対応できていません。

女性が経済的・社会的に自立しやすい環境が整備されることで、家庭と仕事の両立が進み、少子化や労働力不足への対策に寄与します。今後は、男女平等や多様性を尊重する社会構造の構築が不可欠です。女性の能力を最大限に発揮し、男女共に家庭と仕事の両立を支援することで、これらの問題への対処が進みます。柔軟で包括的な働き方やリーダーシップが広がり、社会全体が変革に向けて進展することが必要です。

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