海外子会社の役員報酬が高騰する理由と契約書のまき直しの必要性

目次

なぜ海外子会社の役員報酬が上昇傾向にあるのか、そしてその対策としてなぜ契約書の見直しが必要なのかを掘り下げていきます。グローバル市場での競争が激化し、事業運営のリスクが高まる中、適切な報酬体系を設計することは企業にとって欠かせない課題です。
本コラムは、海外展開を進める日本企業の経営者や人事・法務担当者に向けて、役員報酬の高騰背景と契約書の見直しの重要性について、実践的なアドバイスを提供します。

1.海外子会社の経営環境と役員報酬の現状

1-1.海外における経済動向と役員報酬への影響

海外子会社の経営環境は、急速に変化しています。特にアジアでは、各国の経済成長が続く中、需要の変化や競争の激化が役員報酬に影響を与えています。また北米では、テクノロジーの進化や取引環境の変動が報酬構造に変革をもたらしています。またグローバルビジネスでは、各国での政治や規制の変更もビジネスに影響を及ぼし、経済動向への敏感な戦略が求められているため、各企業はそれぞれの状況に適応せざるを得ません。

1-2.海外子会社の役員報酬が高騰する要因とは

海外子会社の役員報酬が高騰する主な要因として、次のような事が挙げられます。

・グローバル競争の激化
世界的な競争が激化する中、経営陣のリーダーシップや戦略的な視点がますます重要になっています。企業は優れた人材を引き留めるために高い報酬を提供し、競争力を維持しようとしています。

・国際展開のリスク
海外での事業展開には多くのリスクが伴います。経営陣がこれらのリスクに対処し、事業を成功に導くためには高度な能力が求められます。そのため、リーダーシップに見合った報酬が期待されるのです。

・業績連動型報酬の普及
成果に基づく業績連動型の報酬が一般的になりつつあります。経営者が企業の短期および長期の目標を達成すると、それに応じた高額の報酬を得ることが一般的となり、これが報酬の高騰を引き起こす要因となっています。

・人材の希少性
グローバル市場で優れた経営陣や専門家は希少であり、彼らを引き留めるためには競合他社との競争が激しく、高額な報酬が必要です。

1-3.日本の役員報酬と海外の役員報酬との比較

海外子会社運営のカギを握る経営者の報酬は、日本の親会社にとって、会社の長期的な成功に必要なものです。ウイリス・タワーズワトソン の「日米欧CEO報酬比較(2022年調査結果)」によると、日本における役員報酬の内訳として、36%が固定報酬、64%が業績変動報酬となっていますが、ヨーロッパでは固定報酬が22~25%、業績変動報酬が73~78%、アメリカに至っては、固定報酬はわずか9%で、91%が業績変動報酬という結果がでています。

固定報酬が中心の日本と、業績変動報酬がメインの欧米とでは、報酬の差は歴然であり、優秀な人材の確保に後れを取っている状況です。

2.海外子会社からの報酬要求

2-1.海外子会社からの報酬増加要求の理由

海外子会社社長や経営陣から親会社に対する報酬の増加要求は主に3つの理由が考えられます。

まず1つは、グローバル市場での激しい競争が挙げられます。競争が激化する中、社長や経営陣は優れたリーダーシップや戦略的ビジョンを提供し、ビジネスの成功に貢献しています。これにより、彼らは企業価値の向上に見合った報酬を期待しているのです。

2つ目として、ビジネス上の大きなリスクへの対処が挙げられます。国際的なビジネス展開には大きなリスクが伴います。海外市場での経済的な変動や地域ごとの法的・規制上の課題への対処、文化的な違いへの対応など、これらの課題に対処するためには経験豊富で能力の高い社長や経営陣が必要です。そのため、社長や経営陣は対処したリスクに見合った形で評価されるべきだという考えを持っています。

3つ目として、地域ごとの生活コストや労働市場の競争状況も報酬要求に影響を与えています。高度な専門知識や国際的なビジネススキルを持つ社長や経営陣は限られており、彼らを引き留めるためには適正な報酬が必要となります。これらの要因を踏まえ、報酬アップの要求は企業の競争力と長期的な成功に欠かせないものなのです。

2-2.交渉プロセスとその課題

日本の親会社と海外子会社との給与交渉プロセスは、異なる文化や法制度、ビジネス慣習の影響を受け、複雑さを伴います。まず、地域ごとの経済状況や生活コストを考慮して報酬パッケージを調整する必要があるだけでなく、各国の法的要件や税制に対応し、適切なコンプライアンスを確保することも欠かせません。

海外子会社と親会社の文化や価値観の差異も交渉を複雑化させます。報酬制度や評価基準における違いが、双方の期待値に影響を与える可能性があります。また、競合他社の報酬水準や地域的な人材市場の変動に迅速に対応する必要があり、これがプレッシャーとなることもあります。

これらの課題に対処するためには、十分なリサーチや地域に精通したアドバイザーの活用、円滑なコミュニケーション強化が不可欠です。言われるがままに契約書にサインを押すのではなく、現地の調査や福利厚生の見直しを行い、しっかりと交渉していく必要があります。
透明性と柔軟性を備えた戦略的なアプローチが、効果的な給与交渉プロセスの構築につながります。

3.再交渉と契約書のまき直しの必要性

3-1.現行契約の問題点とリスク

私たちカルチャリアが海外進出をしている多くの日系企業をコンサルティングする中で、海外拠点でも日本基準の雇用のあり方を、そのまま採用している傾向が多々あります。日本のレガシーな制度をそのまま引き継いでしまっている日系海外子会社は、早々にグローバルとローカルの市場状況を考慮したローカライズ化が必要です。このままでは、異なる法律体系や文化の認識のずれや、通貨の変動や地域経済が変動した際の対応が遅れ、人材の流出と生産性の減退というリスクが生じます。そのため、現行の契約を見直し、契約内容をまき直す必要があるのです。

3-2.契約書まき直しの重要性

海外子会社の役員報酬は、文化的な違いやビジネス慣習に影響を受けています。日本では、企業文化が控えめでチームワークを重視し、報酬は固定化されることが一般的です。一方で、海外では個人の業績や市場価値に基づく変動報酬が中心であり、リターンに対する期待が高くなります。特にアメリカでは、株式オプションや株式報酬が一般的であり、リーダーシップの成果により直結しています。

報酬の透明性や競争激化が高まる中、グローバル企業は競争力を維持するために高水準の報酬を提供せざるを得ません。日系企業もペイフォーパフォーマンス型にシフトすることで、会社として最も維持したい優秀な人材の確保にもつながり、結果、会社の業績も上がるWin-Winな関係構築が可能となります。そのため、報酬の見直しは企業価値の最大化と社長や経営陣のモチベーション維持とトップ人材の確保に向けた重要な施策なのです。

3-3.再交渉のアプローチと戦略

報酬の再交渉に臨む場合、事前にやるべきことがあります。

⓪現状把握
現状の契約体系や現地の会社状況を把握することが大事です。サーベイや現地調査などで得た結果をもとに、交渉材料を揃える必要があります。

①異文化理解
進出しているエリアのビジネス文化や労働習慣を理解することが不可欠です。文化の違いが契約交渉に影響を与える可能性がありますので、十分なリサーチが重要です。

②現地法や規制の確認
当然ですが、各国の法律や規制に違反しないようにするため、現地の法的なアドバイザーを活用し、現地の法律に準拠しているか確認することが必要です。

③競合他社の事例研究
同業他社の契約や報酬体系を研究し、国ごとの標準や競争相手との比較を行います。これにより、適正な報酬水準や条件を見積もる上での参考となります。

上記をしっかり握ったうえで、交渉に臨みましょう。そして実際の交渉の場では、透明性を確保し、社長や経営陣とのオープンなコミュニケーションを重視することが重要です。期待値や目標を明確にし、双方が合意する共通の目標に向けて協力することが鍵となります。事前のリサーチや交渉戦略には、海外に強みを持つ人事コンサルティング会社のリソースを投入する手段もあります。

4.まとめ

海外子会社の役員報酬が高騰する主な要因は、グローバル競争の激化とリスクの増大です。海外展開に伴う事業リスクや戦略的判断の難しさや、人材獲得競争が激しさを増す中、優れた経営者を確保・維持するために高い報酬が必要となることが、役員報酬の増加の要因になります。

国際競争が激化する中、優れたリーダーシップや戦略的ビジョンを提供し、ビジネスの成功に貢献する優秀な人材を確保していくためには、報酬の構造としてインセンティブの割合を高め、良い業績を上げた人材が十分に報われるペイフォーパフォーマンス型へ移行することが求められます。

カルチャリアでは過去25年間で2800社以上の日系企業と24か国に渡る人事プロジェクトに従事してきました。役員報酬の見直しは、長期的な成功を見据えた戦略を組むことが必要です。社長や経営陣がモチベーションを維持し、企業の成長に寄与できるような公正で透明性のある報酬体系が求められるため、私たちのような専門家にもご相談ください。

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