成功する海外の日系子会社とは?人事の目線から見る海外子会社管理の現状と問題点

目次

グローバルビジネスで成功を収めるためには、海外子会社の効果的な管理が不可欠です。しかし、異なる文化や言語、法律、商習慣という壁に直面している企業はとても多いというのが現状です。本コラムでは、海外子会社の経営者や人事が直面する異文化コミュニケーションから法的課題、マネジメント、人事採用課題などに触れ、グローバルビジネスの展開と成功をつかむための道しるべとなる視点をお届けします。

1.日本企業の海外展開と子会社管理の現状

2023年に行われた日本在外企業協会による「日系企業における経営のグローバル化に関するアンケート調査」によると、海外従業員に占める日本人駐在員の比率は1.02%という結果でした。この数値は一見すると日本人駐在員数は少ないように感じるかもしれませんが、これはあくまで現地従業員数との比率であるということを忘れてはいけません。近年では海外子会社経営のローカライズの重要性が認識されるようになり、日本人駐在員数の比率は減少傾向にあります。

しかし、海外現地法人における日本人社長比率は43%で、2018年度調査の38%と比較すると微増している状況です。ローカライズが進み、理想としては、日本人駐在員は一部に留め、現地籍の社長と現地籍の管理職を中心とした体制作りを目指しているものの、現地での経営・管理職層の採用難に直面していることもあり、日本人社長と現地籍の管理職でマネジメントを行う体制を続けていることが伺えます。

1-1.海外展開の背景と重要性

日本企業の海外展開は、グローバル市場での競争激化や新たなビジネスの機会を求め、急速に進んでいます。これは、国内市場の飽和や少子高齢社会における日本市場の縮小などに対応するための企業戦略です。海外展開は企業にとって単なる事業拡大だけでなく、地域ごとの需要や文化への適応、リスク分散など多岐にわたるメリットがあります。特に、技術の進化によりグローバルネットワークが拡大し、顧客との直接的なつながりが可能になったことが、海外展開の重要性を一層高めています。

1-2.日本企業における海外子会社管理の現状

多くの日系海外子会社は、さまざまなマネジメント課題に直面しています。例えば、文化やビジネス慣習の違いによるコミュニケーションの困難さや、地域ごとの法規制への適合、異なる市場環境での競争への対応、海外展開に伴うリソースやコストの適切な配分などが挙げられます。特に、本社と現地子会社とのコミュニケーションギャップや、グローバル人材の採用、現地人材の採用・育成において悩みを抱える企業が見られます。

2.海外子会社の管理の課題

海外子会社の管理には、言語面だけでなく多岐にわたる課題が潜んでいます。

2-1.日本人駐在員の役割とコスト問題

海外子会社における日本人駐在員は、日本の親会社と海外子会社の文化・言語の架け橋としての重要な役割を果たしています。彼らは本社との円滑なコミュニケーションを行い、現地従業員の育成やビジネス文化の理解を促進します。一方で、この駐在員制度には高いコストが伴います。海外派遣には給与や手当、課税差額補填だけでなく、駐在手当や生活費、本国と駐在地の間での引っ越しや移動にかかる費用もかかり、これが企業にとって負担になります。

2-2.現地籍社長の給料の高騰

現地籍社長の給料の高騰も課題の一つとして挙げられます。例えば、アジア諸国では現地人材の需要が高まり、採用競争が激化しています。これに伴い、現地籍の経験豊富なリーダーの需要が増加し、その結果、給与水準が上昇しています。以前は数百万円だった現地籍社長の年収が、最近では数千万円に増加しているケースも見受けられます。この高騰は、企業にとって予算の圧迫やコスト面での競争力の低下といった問題を引き起こしています。

2-3.文化・言語の障壁

異なる文化や言語によるコミュニケーションの困難さは、円滑な業務遂行に影響を与えます。言語の違いからくる意思疎通の行き違いや誤解、ビジネス慣習の相違により、目指すべきゴールへの足並みが乱れてしまうからです。また、異なるコミュニケーションスタイルや意思決定プロセスは、チームの連携や組織文化の形成にも影響を及ぼし、最終的には業績にも影響を及ぼします。

2-4.経営層の国籍とコミュニケーションのギャップ

例えば本社が日本である企業において、海外子会社の経営層が異なる国籍である場合、文化やビジネス慣習の違いによりコミュニケーションが困難となることがあります。日本的な上下関係や意思決定スタイルが、現地の柔軟でアクティブなビジネス文化と合わないことがあり、効率的な意思疎通が難しくなります。このようなギャップは、戦略の誤解や方針の不一致につながり、現地子会社の適切な経営が難しくなります。

3.マネジメントチェック

海外子会社のローカライズ(現地化)はグローバルビジネスを成功させるうえで、とても重要な役割を担います。ここではあなたの会社の「ローカライズ度」をチェックしてみましょう。

□毎年の経営目標を決める会議は、日本人駐在員のみで行っている
□人事制度は、日本人が本社の規則をもとに修正したものを利用している
□現地社員向けの研修体系が整備されていない
□毎年の給与の昇給率は現地からのリクエストを承認する方法である

当てはまる項目はありますか? この質問に1つでもチェックがつくようでしたら、海外子会社の管理、人事採用などのマネジメント方針を見直す必要があります。

4.海外子会社のマネジメント改善策

海外で成功している日系企業は、海外子会社のローカライズを積極的に行っています。ローカライズとは、現地の事情に合わせて経営方針や人事制度、マネジメント方針を柔軟に変えることです。主要なローカライズ施策として、下記のようなことが挙げられます。

4-1.海外子会社の現状把握

成功を収めている海外子会社は、人事制度や報酬、給与の市場調査、インセンティブやボーナスの決定などを毎年しっかりと実施しています。アンケートや現地での聞き取りなどをタイムリーに行い、現地のニーズや動向を把握しなければなりません。

4-2.駐在員の育成と異文化理解

日本人駐在員に対する継続的な異文化理解の場を与えることが求められます。語学学習やビジネス慣習を知ることも大切ですが、それだけでなく、地域の歴史や文化にも焦点を当て、実地体験を通じて理解を深めることが必要です。例えば、チームメンバーが自身の文化や食文化、伝統など、お互いのバックグラウンドを共有することでコミュニケーションや相互理解を促進する文化交流や、コミュニケーションスタイルやビジネス慣習の違いに焦点を当て、具体的なシナリオやロールプレイを通じて、異なる文化への理解を高める異文化ワークショップなどが挙げられます。これにより、円滑なコミュニケーションと協働が促進され、持続可能なグローバルビジネスが育まれます。

4-3.現地従業員の採用と育成

海外子会社のミッションとして、現地社員の採用と育成は必須です。現状を見てみると、駐在員が目の前の業務で手一杯になり、現地採用した社員の育成を計画的に行えていないケースが非常に多いのです。現地採用した人材に対して、日本とのコミュニケーションの方法を教える研修だけでなく、経営やマネジメントスキルを高める研修が求められます。なぜなら日本企業のみならず他国からも競合企業が進出し、優秀な人材の採用や確保が難しくなっている中、組織を任すことができるマネージャーやリーダー層の育成は不可欠だからです。また、現地社員のキャリアパスや評価制度を明確にし、将来の経営層になりうる人材を育てていく必要があります。

4-4.現地に合わせた人事制度の重要性

日系企業の人事制度は、年功序列をベースにした制度で、能力を評価する基準が抽象的で曖昧になりやすいというデメリットがあります。そのため、海外子会社では、現地の市場や商習慣に合わせて人事制度を設計する必要があります。例えば、現地の市場水準に合わせた給与やボーナスを設定したり、能力や成果に応じた評価や昇進を行ったりしています。

5.まとめ

日系企業の海外展開は、新たなビジネス機会を求めて急速に進んでいます。しかし、グローバル展開を担う海外子会社では、文化や言語の違いによるコミュニケーションの困難さ、人材の確保・育成、経営層の国籍とのコミュニケーションギャップなどが顕在しており、多くの課題が潜んでいます。

特に、日本人駐在員の派遣に伴う高コスト、現地籍社長の給料の高騰、文化的・言語的な障壁が経営課題となっています。これに対処するためのマネジメント改善策として、海外子会社の現状を把握し、駐在員と現地従業員の育成・理解を図り、現地に合わせた人事制度の導入が求められます。これらのステップを踏むことで、海外展開の成功を図ります。

とはいえ、「海外子会社をより良いものにするために、何から始めればいいのか」「現地社員を育成するための制度や、現地にマッチした人事制度を作っていくために何をしたらいいのか」が最初は難しいポイントだと思います。カルチャリアは過去25年間で2800社以上の日系企業と、24カ国に渡る人事プロジェクトに従事してきました。その経験を元に、貴社のグローバル人事領域を伴走していきます。お気軽にお問い合わせください。

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