人的資本経営とは?情報開示や導入の仕方、メリットをわかりやすく解説

近年、ビジネスの世界では「人的資本経営」や「人的資本情報開示」という言葉がますます注目を集めています。これは、企業が人材を単なるコストとしてではなく、重要な資本として捉え、その価値を最大化するための戦略的な取り組みを指します。本記事では、人的資本経営の基本的な情報や実際に運用を進めるうえで押さえておきたいポイントなどについてわかりやすく紹介していきます。

・人的資本経営とは何か理解したい
・人的資本経営に取り組みたいと考えている
・具体的な施策を探している

💡こんな方におすすめです!

目次

1.人的資本経営とは?

人的資本経営とは、企業の資本の一部としての人材を最大限に活用しようとする経営手法の一つです。従業員のスキルや知識、経験といった「人的資本」を経営資源として捉え、それを企業価値の向上に結びつけることを目的としています。人的資本経営は、企業が人材を単なる労働力としてではなく、価値を創出する重要なアセットとしてとらえるという視点が特徴的です。

1-1.人的資本経営の背景

人的資本経営の背景には、少子高齢化に伴う労働力不足の深刻化、技術の進歩、働き方改革など、さまざまな要素が絡み合っています。特に、情報化社会の進展により、知識やスキルが企業の競争力を左右するようになった現代では、人材の活用が企業の成長に直結するという認識が広がっています。その結果、企業は従業員一人ひとりが持つ独自の能力や経験を最大限に活かし、企業全体のパフォーマンスを向上させることを目指しています。

ヨーロッパをはじめとする海外ではもとよりサスティナビリティへの関心が高く、ESG投資が注目されていました。アメリカでは2008年のリーマン・ショックを契機に「財務諸表のみで企業価値を評価すること」に警鐘が鳴らされ、投資家が企業への投資プロセスにESG(環境・社会・ガバナンス)評価を導入する流れが生じたことにより、人的資本経営の情報開示が進みました。2018年には国際標準化機構(ISO)によって人的資本の情報開示のための国際標準ガイドライン(ISO30414)が発表されたという背景があります。しかし、日本では2020年に経済産業省より「人材版伊藤レポート」が公表されて以降、人的資本経営への注目度が上がりました。日本の動きは海外と比較して遅いと言わざるを得ません。

1-2.人的資本経営が注目される理由

人的資本経営が注目される理由には、人材が企業の競争力を左右するという認識が広まっていること、そして企業が社会的な責任を果たすためには、従業員の能力やモチベーションを高めることが不可欠であるという点にあります。また、企業の成長やイノベーションを支えるためには、個々の従業員が自己実現を図りながら成長していくことが求められます。これらの視点から、人的資本経営は企業経営における重要な要素と認識されています。また、少子高齢化に伴う労働力不足が深刻化していることが挙げられます。このため、企業や人事にとっては限られた人材をいかに効率的に活用するかが重要な課題となっています。また、働き方改革やダイバーシティ推進といった社会的な要請もあり、多様な人材の活用が求められています。

1-3.人的資本経営の情報開示項目とは?

人的資本経営の情報開示項目とは、企業が自社の人的資本経営の取り組み状況や成果を外部に伝えるための情報のことを指します。情報開示は、上場企業など約4000社の大手企業が対象となっています。
開示の対象となるのは、多様性や人材育成、エンゲージメントなど、7分野19項目になります。具体的な人的資本経営の情報開示内容は下記をご確認ください。

分野項目
多様性ダイバーシティ/非差別/育児休業
流動性採用/維持/サクセッション
労働慣行労働慣行/児童労働・強制労働/賃金の公正性/福利厚生/組合との関係
人材育成リーダーシップ/育成/スキル・経験
エンゲージメント従業員満足度
健康・安全精神的健康/身体的健康/安全
コンプライアンス法令遵守

2.企業が取り組むべき人的資本経営の戦略とは

企業が取り組む人的資本経営の戦略は、社員一人ひとりのスキルや知識、経験を最大限に活用し、企業全体の競争力を高めることを目的としています。この戦略の中心には、優秀な人材の確保、育成、配置が含まれます。人事はまず、現状の人材状況を詳細に把握し、社員のスキルや経験をデータとして収集・分析します。この情報を基に、企業のビジョンやミッションに合致した人材戦略を策定し、適切な教育研修プログラムを導入します。社員のエンゲージメントやモチベーションを高める環境づくりも重要です。これには、働きがいのある職場環境の整備や、社員の意見を尊重する企業文化の醸成が含まれます。こうした取り組みによって、社員が自己成長を実感し、企業全体の生産性向上に寄与することが期待されます。

さらに、人的資本経営の情報開示は、企業の透明性を高め、投資家やステークホルダーの注目や信頼を獲得するために不可欠です。具体的には、教育研修への投資額、従業員満足度、離職率、ダイバーシティの状況などのデータを開示します。これにより、どのように人的資本を活用してサステナビリティを推進しているかを透明性をもって示し、社会的信用を向上させることができます。

総じて、人的資本経営の戦略は、社員の成長と企業の競争力強化を両立させるものです。効果的な人事戦略と透明性のある情報開示を通じて、企業はサステナビリティな成長を実現し、社会的信用を高めることができます。

3.人的資本と人事戦略との関連性

人事戦略と人的資本経営は、企業の成長と競争力強化において密接に関連しています。人事戦略とは、企業のビジョンやミッションに基づき、必要な人材を確保、育成、配置し、最大限のパフォーマンスを引き出すための計画や方針を指します。一方、人的資本経営は、社員一人ひとりのスキルや知識、経験を「資本」として捉え、その価値を最大化するための戦略的なマネジメントアプローチです。
この二つは相互補完的な関係にあり、効果的な人事戦略があってこそ人的資本経営が成り立ちます。具体的には、人事戦略に基づいて優秀な人材を採用し、継続的な研修やキャリアパスの明確化を通じて人材を育成します。これにより、社員の能力が向上し、企業の競争力が強化されます。また、人的資本経営の視点からは、社員のエンゲージメントやモチベーションを高めるための環境づくりが重要です。これには、社員の意見を尊重し、働きがいのある職場を提供することが含まれます。これにより、社員が自己成長を実感できるようになり、企業全体の生産性向上に寄与します。
結局のところ、人事戦略と人的資本経営は、企業が持続的に成長するための両輪と言えます。戦略的に人材を活用し、彼らの成長と貢献を最大化することで、企業は市場での競争優位を確立し続けることが可能となります。

4.人的資本経営のメリット

4-1.企業にとってのメリット

まず、競争優位性の強化が挙げられます。人的資本経営を行うことで、社員一人ひとりの能力や特性を最大限に活かすことが可能となります。

社員のモチベーション向上も大きなメリットと言えるでしょう。人的資本経営では、社員の成長やキャリア開発を重視するため、社員が自己実現を果たすことができる環境が整い、社員エンゲージメントや働きがい、モチベーションが高まります。また、社員のスキルアップによる業績向上も見逃せません。社員一人ひとりのスキルが高まることで、業績が向上し、企業の成長を実現することができます。さらに、企業のブランド力向上にもつながります。社員満足度が高まると、社外に対しても良好なイメージを発信することが可能となります。これにより、企業のブランド力が向上し、優秀な人材の獲得や顧客の獲得につながります。

以上のように、人的資本経営は企業にとって多くのメリットをもたらします。次に、人材にとっての人的資本経営のメリットについて見ていきましょう。

4-2.人材にとってのメリット

人材にとっての人的資本経営のメリットを具体的に考えてみましょう。人的資本経営が推進されると、従業員一人ひとりが組織の価値創造に直接影響する重要な存在と認識されるようになります。その結果、自己成長の機会が増え、キャリアパスが明確になるとともに、職場環境や評価体系が改善され、働きやすさが向上します。これらは、従業員の満足度やエンゲージメントを高める要素となります。
また、企業が人材のスキルや能力に投資することで、従業員自身の市場価値が上がる可能性もあります。これは、従業員が自己のキャリアを長期的に見据え、自己投資を行う意欲を喚起します。さらに、人的資本経営は、従業員が企業のビジョンや戦略に共感し、自分自身がその一部となる感覚を持つことを促進します。これにより、従業員のロイヤルティーが高まり、組織へのコミットメントが強まるとともに、自身の業務に対する意識や責任感が高まると言われています。

人的資本経営は企業にとっても人材にとっても多くのメリットをもたらします。それぞれの立場から人的資本経営の活用方法や取り組み方を考え、組織全体での価値創造を目指していきましょう。

5.人的資本における情報開示の効果とは

人的資本経営とは、企業の中長期的な成長と持続的な価値創造を目的に、人材を最大限活用する経営戦略です。これにより、企業は高いパフォーマンスとイノベーションを引き出すことが可能となります。しかし、その効果を最大化するためには、適切な情報開示が不可欠です。情報開示は、企業がどのように人的資本を活用しているかを内外に示すことで、ステークホルダーとの信頼関係を強化します。特に投資家や顧客は、企業が開示した情報を人的資本経営の取り組みを評価する重要な基準としています。

また、情報開示は、社員が自身の働きがいや成長の可能性を感じるためにも重要です。開示されている自社の人事戦略や人的資本経営の取り組みを理解することで、社員のモチベーションやエンゲージメントを向上させることが可能です。

しかし、情報開示には適切なバランスが求められます。企業秘密を守りつつ、必要な情報を適時に開示することが求められます。そのため、どの情報をどのタイミングで開示するかは、企業の戦略に密接に関連しています。人的資本経営の取り組みは、世界中の多くの企業で見られます。日本の大手企業でも、人的資本経営の取り組みが進んでいます。経営者が自社の人材を最大限に活用することで、企業の競争力を高め、持続的な成長を実現しています。

6.人的資本経営のフレームワークとモデル

「3P・5Fモデル」の詳細解説

3P(People、Process、Performance)・5F(Fact、Focus、Force、Feedback、Future)モデルとは、人的資本経営を推進するためのフレームワークです。

まず、3Pとは、People(人材)、Process(プロセス)、Performance(パフォーマンス)の略で、これら三つの要素が人的資本経営の基盤となります。Peopleは人材の育成と評価、Processは人材管理のプロセス、Performanceは組織のパフォーマンスを意味します。これらを融合させ、組織全体の業績向上を目指します。

一方、5Fとは、Fact(事実)、Focus(焦点)、Force(力)、Feedback(フィードバック)、Future(未来)の略で、これら五つの要素が人的資本経営を推進するための行動指針となります。Factは現状の客観的な把握、Focusは重要な課題への集中、Forceは実行力の強化、Feedbackは結果のフィードバック、Futureは未来のビジョン設定を意味します。これらを組織全体で共有し、継続的に取り組むことで、人的資本経営の実現を目指します。

人的資本経営は、企業の競争力強化と持続的な成長に不可欠な戦略です。3P・5Fモデルを活用し、人材を組織の最重要資源と捉え、その価値を最大化する取り組みを積極的に進めていきましょう。

7.人的資本経営実践に向けた具体的なステップとは

7-1. 現状把握

アメリカと日本の人事制度は、例えばアメリカは個人主義、日本は集団主義というような、文化的背景や商習慣の違いが大きな影響を与えています。グローバルで勝ち抜くためには、言語の違いだけではなく文化や商習慣の違いを理解することが大切です。日本の制度をそのまま現地で展開しても、先のような違いからグローバル事業はうまく事が進まなくなります。現地の文化や習慣に則した明瞭かつ公平な人事基盤を築くことが、グローバルで成功するための秘訣です。

7-2. 戦略策定

現状把握が完了したら、次に自社の得意分野や強化したい領域を明確にし、それに基づいた人材戦略を策定します。ここでは、企業のビジョンやミッションと整合性のある人材戦略を立てることが求められます。例えば、技術革新を目指す企業であれば、デジタルスキルの強化やイノベーションを推進するための研修プログラムを導入することが有効です。また、多様性と包摂性(ダイバーシティ&インクルージョン)を重視する場合、性別や国籍に関係なく、多様な背景を持つ人材を積極的に採用し、異なる視点やアイデアを尊重する企業文化を醸成することが重要です。

7-3. ゴール設定

経営戦略策定後は、具体的な目標を設定し、それに向けての行動計画を立てます。目標設定においては、SMARTの原則(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)に基づくことが効果的です。例えば、「次年度末までに全社員のデジタルスキルを現状より20%向上させる」というような具体的で測定可能な目標を立てます。目標達成のための行動計画には、定期的なスキル評価、必要な研修の実施、進捗状況のモニタリングなどが含まれます。

また、ゴール設定に際しては、短期的な目標と長期的な目標をバランスよく設定することが重要です。短期的な目標としては、6か月以内に特定のスキル研修を完了させること、長期的な目標としては、5年間でリーダーシッププログラムを通じて管理職候補を育成することなどが考えられます。これにより、企業は目標達成の進捗を定期的に評価し、必要に応じて経営戦略の修正や改善を行うことができます。

8.まとめ

人的資本経営とは、企業の持続的な成長と価値創造に向けた重要な戦略です。情報開示はその取り組みを内外に示し、ステークホルダーとの信頼関係を深めるために必要です。現代のビジネス環境では、技術革新や市場の変化が急速に進む中、優れた人材の確保と人材育成が競争力の源泉となっています。具体的な取り組みを始めるためには、現状の把握から戦略策定、目標設定までのステップを踏むことが大切です。

人的資本経営がこれだけ注目されている背景にはいくつかの要因があります。まず、少子高齢化に伴う労働力不足が深刻化していることが挙げられます。このため、企業は限られた人材をいかに効率的に活用するかが重要な課題となっています。また、働き方改革やダイバーシティ&インクルージョンといった社会的な要請もあり、多様性のある人材の活用が求められています。

具体的な取り組みとしては、社員のスキルアップを図るための教育研修プログラムの充実や、キャリアパスの明確化、働きがいのある職場づくりなどが挙げられます。また、デジタルトランスフォーメーションの進展により、データを活用した人事管理やマネジメント、パフォーマンスの可視化が進んでいます。これにより、社員の強みや弱みを的確に把握し、最適な配置や育成が可能となっています。

人的資本経営の効果は、企業の生産性向上やイノベーションの促進、社員エンゲージメント、社員幸福度向上など多岐にわたります。特に、社員が自らの成長を実感できる環境を整えることで、企業全体のモチベーションが高まり、結果として業績の向上につながります。人的資本経営は企業の持続的な成長を支える重要な経営戦略として、今後ますますその重要性を増していくでしょう。

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