人事制度の基本とは?設計の目的や設計ステップなどを解説

人事コンサルティング会社として2800社以上の人事制度を作ってきた経験からみても、最近の情勢の変化は著しく、時代に合わせた人事が必要だと感じています。人事制度の基本的な定義、その目的、そしてそれが企業の成功にどのように寄与するかを探ります。さらに、どのように人事制度を設計し、評価するか、また、そのプロセスが難しい場合にどのような対処方法があるのかについても詳しく解説します。

・人事制度を新しく見直したい人事・経営者の方
・人的資本経営に力を入れたい経営者
・初めて人事部に配属された方

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目次

はじめに

「これまでの人事とこれからの人事」
私たちが事業を行う環境は、かつてない速度で変化しています。特に日本企業の人事部門においては、これまでの慣習や手法が現在及び将来のビジネスに対応しきれない可能性が高まっています。競争力を維持し、持続可能な成長を遂げるためには、戦略人事の重要性がこれまで以上に求められます。

1.人事制度の基本とその目的

1-1.人事制度設計の目的とは?

人事制度の設計の目的は、企業の組織目標達成を支え、社員の能力開発やモチベーション向上を図ることです。適切な人事制度は、社員一人ひとりが自分の役割を理解し、最大限の成果を発揮できる環境を作り出します。

まず、適切な人事制度があることによって、組織目標の達成がしやすくなり、従業員の成果を最大化して企業のビジョンと戦略目標の実現を支援します。次に、公平性と透明性の確保です。公正な評価と透明なプロセスにより、従業員のやる気を高め、組織への信頼感を醸成します。

人材育成とキャリア開発の促進も人事制度設計における重要な目的です。研修プログラムやキャリアパスを整備し、従業員のスキルアップと成長を支援します。これにより、企業の競争力が向上します。さらに、退職率の低減と人材定着を図ります。適切な評価と報酬制度、充実した福利厚生により、従業員の満足度を高め、長期的な定着を促進します。

最後に、法令遵守とリスク管理です。労働法規や規制を遵守するための制度を整備し、コンプライアンスリスクを低減します。これにより、企業は法的トラブルを回避し、信頼性の高い経営を実現できます。

このように人事制度の設計は、これらの目的を達成することで、企業の持続的な成長と競争力の強化に寄与します。

1-2.人事制度を構成している4つの柱とは?

人事制度を構成している要素は主に等級制度、評価制度、報酬制度の3つですが、これに「企業理念」を追加した4つが人事制度を作る上でとても大事だと考えます。この4つの柱が、人事制度の中核を成す重要な要素です。それぞれが相互に連携し、従業員のモチベーション向上、能力開発、業績向上を促進します。これらの柱を効果的に設計・運用することで、企業は持続可能な成長を遂げ、競争力を維持することができます。人事制度の4つの柱を理解し、実践することは、現代のビジネス環境において成功を達成するための重要なポイントとなります。

①企業理念
フィロソフィー(理念)とは、企業という存在における根本的な考え方や在り方を指し、企業の内面的な信念や価値観に焦点を当てています。どんな想いがあってどんな存在で在りたいかを示す意義のようなものです。理念は経営における方向性や方針にも影響するとても大事な根幹部分です。
パーパス(目的)を明確にしている企業も多く存在します。パーパスは、企業の存在理由や目指すべき大義名分を示し、企業が社会にどのような価値を提供するかを明確にし外部への影響に焦点をあてています。
フィロソフィー(理念)を構成する3つの視点として
①ビジョン:(展望、志)未来の構想力
②ミッション:(使命)果たすべき任務
③バリュー:(価値観)何を正しいとするか?


②等級制度
等級制度は社員に求められる期待、役割の大きさに沿って分けた段階を表します。
等級制度は、企業の人事制度の中でも特に重要なポイントを担っています。等級ごとに細かく設計することで各ポジションに必要な能力、経験、知識などがはっきりします。評価や報酬にも直結する核となる部分です。

③評価制度

評価制度は、従業員のパフォーマンスを公正かつ客観的に評価するための枠組みです。評価の基準と評価の方法を決めます。これには、定期的なパフォーマンスレビューや目標管理制度、360度評価等の手法が含まれます。評価制度の目的は、従業員の成果を正確に把握し、適切なフィードバックを提供することです。これにより、従業員がやる気を高め、自己成長を促すことができます。また、公正な評価基準を設けることで、企業全体の透明性が向上し、信頼性の高い組織文化を築くことができます。

④報酬制度
報酬制度は、「報酬」の水準と、評価結果の「報酬への結び付け方」を表します。
従業員の貢献度に応じて適切な報酬を提供するための枠組みです。これには、基本給、ボーナス、インセンティブ、福利厚生などが含まれます。報酬制度の設計において重要なのは、外部競争力と内部公平性のバランスを取ることです。市場の賃金動向を把握し、競争力のある報酬を設定することで、優秀な人材の確保と定着が可能となります。また、内部公平性を保つために、従業員の役割や貢献度に応じた報酬体系を整備し、公平な報酬配分を実現することが求められます。

1-3.人事制度を見直すタイミング

人事制度を見直すタイミングは、企業の状況や環境の変化に応じて適切な時期を選ぶことが重要です。以下に、人事制度を見直すべき一般的なタイミングと具体的な状況を挙げます。

①組織の大きな変化
企業合併や買収: 合併や買収に伴い、異なる人事制度を統合する必要がある場合。
事業拡大や縮小: 事業の規模が大きく変わると、現行の人事制度が適用しにくくなるため。

②経営戦略の変更
新しいビジネスモデルの導入: ビジネスモデルの変更により、新たなスキルや役割が必要になる場合。
グローバル展開: 海外進出や国際的な事業展開に伴い、国際基準に対応した人事制度が求められる場合。

③法規制の変更
労働法や雇用関連法規の改正: 新しい法規制に適応するために人事制度を見直す必要がある場合。

④従業員のニーズの変化
働き方改革: リモートワークの普及やワークライフバランスの重視など、従業員の働き方やニーズが変化した場合。
エンゲージメントや満足度の低下: 従業員のエンゲージメントや満足度が低下し、人材の流出が懸念される場合。

⑤業績や競争環境の変化
業績の低迷: 業績が低迷している場合、モチベーション向上やパフォーマンス改善のために人事制度を見直す必要がある。
競争環境の激化: 市場環境の変化に対応し、競争力を維持するために人事制度を再評価する必要がある場合。

⑥ 定期的な見直し
定期的な評価: 定期的に(例えば3年ごと)人事制度を見直し、最新のビジネスニーズやトレンドに適応しているか確認する。

2.人事制度設計のステップ

人事制度設計は組織の成長と発展を促進するための鍵となるプロセスです。適切な人事制度設計を行うことで、社員の働く環境を最適化し、その結果として組織全体のパフォーマンスを向上させることが可能となります。本章では、人事制度設計の具体的なステップについてわかりやすく解説します。まずは、人事制度の設計ステップとその的確な評価方法の重要性を理解しましょう

2-1.企業理念の確認と浸透

人事制度をつくるステップで最初に行うべきで大事な要素の一つが、会社の理念の確認と浸透です。人事制度と企業理念は関係ないと思われがちですが、人事制度を設計する上での指針となります。
企業理念と合わない人事制度になると、社員からの不満や会社としてのズレが起こります。

・会社としてどんな姿でありたいか(企業理念、方向性)
・それを実現するために社員にはどうなってほしいか
→それを実現するための人事制度 (理念の浸透)
会社の方向性と一致し、ブレない制度を作る

設計する上での指針、ぶれない軸となりますので
一番最初に「企業理念の確認」と浸透させる努力が大事となってきます。

2-2.現状把握と方向性の確認

新しい人事制度を設計するうえで現状の把握を行いましょう。今どこに問題があるのか、目指したい姿まで何が足りていないのか、などという課題をしっかりと確認する必要があります。

現状分析を行う上で定量的、定性的に行うのが良いです。
定量的な観点では、具体的な数値や課題がはっきりわかり、
定性的な観点では、数値からは見えてこなかった課題や、数値上問題なかった箇所での問題の発見など、お互いが補完しあって多角的にみることができます。

従業員へのヒアリングやアンケート調査も行うのが良いでしょう。どこに満足していて、どこに不満があるのか、どう変わってほしいかなどリアルな現場の声を調査しましょう。また、部署ごとに調査することで、どこが人不足なのか、どこが働きやすいかなど今後の参考にもなります。

2-3.等級制度設計

次に実際に人事制度の設計に移ります。まずは等級制度を設計していきましょう。等級制度から評価制度、報酬制度と派生していきますのでここをしっかり作成します。
等級制度は役割等級×能力等級で細かく設計していくのをおすすめしています。
役割等級:各ポジションの職務内容、責任範囲、必要なスキルや経験を定義し、担う職責の高さと幅を決定する。
能力等級:能力等級は、全社共通。仕事を前に進めていく能力(PDCA、コミュニケーション、対人育成等)の高さと「独立度」で定義する。

各ポジションの内容や重要度を詳細に調査・分析し、その分析結果に基づき、各ポジションに必要な能力、経験、スキル、責任範囲を相対的に決定します。その結果に基づいて、各職務に対応する能力等級を設定します。等級をあげるにはどの経験やスキル、結果等が必要かを明確にしましょう。日本ではあまりありませんが、降格のルールも決めておくことも必要な場合があるのでそちらも合わせて決めましょう。

また、従業員のキャリアパスや働き方を選択できるようにいくつかの道を用意しておくのも大事です。日本ではマネジメントできる人や管理職が評価されがちですが、人によって向き不向きがあります。マネジメント職群として進んでいくのか、スペシャリスト職群で進んでいくのか、従業員の希望と能力にそった選択ができるようにしましょう。

2-4.評価制度の設計

次に評価制度の設計です。評価制度で決めるべきことは大きく3つです。

①評価頻度・時期
年に何回評価をするか決めます。昇降格、給与考課、賞与考課などそれぞれ決めていきましょう。

②評価対象
何を評価するのかを明確にする必要があります。主に以下のものがあります。
成果評価:成果に対する評価
行動評価:行動に対する評価
能力評価:個人の能力に対する評価
などがあります。
それぞれの等級ごとに評価する対象の割合を変える必要があります。特に等級が高くなるごとに成果評価を高くするようにしましょう。
③評価基準・方法
何を基準に評価するかを明確にします。主に以下のものがあります。
評価は従業員のモチベーションに直結します。透明性や公平性、客観性、妥当性などに注意して評価制度を設計しましょう。
・SMART目標評価
・KPI・KGI評価
・360度評価
・自己評価、上司評価 等
評価は従業員のモチベーションに直結します。透明性や公平性、客観性、妥当性などに注意して評価制度を設計しましょう。

2-5.報酬制度

次に報酬制度を決めます。等級制度や評価制度で決めたものをどのように報酬に反映させるかを決めます。
報酬とは
基本給+手当+役職給+諸手当+賞与+etc…
などで構成されます。

基本給は等級制度で決めた等級ごとにを決めるようにしましょう。
世の中の平均や業績、割ける人件費の割合や採用などを考慮した上で決める必要があります。競合他社や世の平均より高く設定すれば採用がしやすくなるメリットもあります。他の報酬に関しても上記のものや、会社としての方向性に合わせて設計していきましょう。

2-6.シミュレーション

人事制度を設計した後は、実際に実際に反映する前に一度シミュレーションして機能するかを確認する必要があります。

これを怠ってしまうと実施した際に機能しなかったらまた調整が必要になってきてしまいますので、しっかりシミュレーションして確認するようにしましょう。また、法的に問題がないことを最終チェックしましょう。

2-7.人事制度の導入・運用

最後は人事制度の導入と運用になります。

実際に現場に導入してからでしかわからない問題等もでてくることもあります。また、これまでに決めた人事制度は世の情勢や会社の業績によって変わっていくものです。一度決めて終わりではなく、定期的に見直す必要があります。それぞれが連動し合っていますので微調整を行いつつ運用していくようにしましょう。

3.社内での人事制度設計が難しい場合

企業における人事制度設計は、組織の戦略やビジョンを具現化する重要な要素であり、組織の成長、社員の満足度向上、そして組織のパフォーマンス向上に寄与します。しかし、人事制度設計は専門的な知識と経験が必要であり、特に中小企業ではその設計が難しく感じることも少なくありません。また、大企業であっても組織の規模が大きくなるほど、人事制度設計の難易度は増す傾向にあります。この章では、社内で人事制度設計が難しい場合にどのような対処方法があるのか、その一例として人材の採用や外部の人事コンサルティング会社への依頼について解説します。組織の規模や現状に応じて最適な解決策を選択し、組織の発展に寄与する人事制度設計を目指しましょう。

3-1.人事制度設計ができる人材の採用

人事制度設計のスペシャリストを社内に確保することは、効果的な人事制度を構築し、維持するための一つの手段です。しかし、このような人材は一般的には限られており、採用が難しい場合もあります。そのため、採用時には特定の能力や経験を持つ候補者を見つける力が求められます。具体的には、人事制度設計に関する知識、組織のビジネスモデルや業界トレンドの理解、そして組織のニーズと合致する制度を設計できる能力等が重要となります。また、人事制度設計者は、制度の運用結果を分析し、必要な改善点を見直しする能力も必要とされます。これらのスキルを持つ人材を採用することで、社内での人事制度設計がスムーズに進む可能性が高まります。しかし、実際の採用プロセスは容易ではないかもしれません。そのため、採用チームと連携して、人材紹介会社などと協力することが求められるでしょう。

3-2.外部の人事コンサルティング会社に依頼する

社内で人事制度設計が難しく感じる場合、外部の人事コンサルティング会社への依頼も一つの有効な手段となります。外部のコンサルティング会社は、多くの企業の人事制度設計を経験しており、その豊富な知識とノウハウを活かして、企業ごとの課題や目指すべき方向性に合わせた最適な人事制度設計を提案してくれます。

また、中立的な立場から組織を分析し、客観的な視点でアドバイスを提供することができるため、組織内部で見えにくい問題点や新たな可能性を発見する機会にもなります。さらに、コンサルティング会社は人事制度設計だけでなく、その適用や運用、評価方法についてもサポートします。これにより、制度が組織内で適切に機能し、目指すべき結果を生み出すための枠組みを構築することが可能となります。

ただし、外部のコンサルティング会社に依頼する際は、その会社がどのような実績やスペシャリスト人材を抱えているのか、自社の課題や目指す方向性に対してどのような提案が期待できるのかを確認することが重要です。また、コンサルティング会社と継続的に良好なコミュニケーションを保つことで、人事制度設計の進行状況を把握し、必要な調整や改善を行うことができます。

4.まとめ

人事制度は従業員のモチベーション向上、能力開発、業績向上、企業としての成長に大きな影響を与えます。企業の理念や方向性によって変わってくるため、しっかりと軸を決めて設計することが大事です。
本記事では、人事制度の基本からその目的、4つの柱、人事制度設計のステップをわかりやすく解説しました。また、人事制度の見直しのタイミングや、評価制度と等級制度の関連性と重要性についても触れました。それぞれの要素は相互に関連しており、一部を見逃すと全体の効果が半減する可能性があります。これらを全て把握し、適切に人事制度を設計・運用することで、企業の成長を促し、長期的な成功を実現することが可能となります。人事制度設計を作る際には、本記事を参考に、必要なステップを踏み、企業の目指すべき方向に進めるよう努力してみてください。
設計が難しい場合には、適切な人材を採用するか、外部の人事コンサルティング会社に依頼することが推奨されます。

人事制度設計にお困りのかたはカルチャリアまでご相談ください。

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