異文化コミュニケーションとは何か?文化の違いや特徴を理解してビジネスに活かす
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目次
少子高齢化で日本の国内市場は縮小の一途をたどっています。長期的目線でビジネスに活路を見出すためには、日本国内だけでなく海外へ目を向けることも必要です。海外でビジネスを展開し、事業を軌道にのせるためには、英語など現地の語学を身に付けることも必要ですが、それ以外にも現地の文化や習慣を知ることも大切です。今回は海外ビジネスシーンで力を発揮するために知っておきたい・身に付けておきたい異文化コミュニケーション術についてお話します。
1.異文化コミュニケーションとは?
➀ 異文化コミュニケーションの定義
異文化コミュニケーションは、自分とは違う考え方やバックグラウンド(出身地や文化、習慣、性別、年齢、職業など)を持つ人がいることを理解し、感情や考え、情報などを受発信することです。異文化コミュニケーションと聞くと、海外の地で外国人とコーヒーを片手に、時折ボディランゲージも交えながら英語で会話するというような、国をまたぐ国際交流を思い浮かべる人も少なくないでしょう。今回は海外との異文化コミュニケーションを中心にお伝えしていきますが、日本国内でも地域によって方言やその土地の生活習慣、生活スタイルがあります。そのため、日本人同士にも異文化コミュニケーションは当てはまりますので、国際交流だけが異文化コミュニケーションではないことは心に留めておきたいところです。
➁ 異文化コミュニケーションの重要性
なぜ異文化コミュニケーションが重要なのでしょうか。そもそもビジネスとは相手あってのものです。相手を知ることでビジネスをより円滑に進めることができます。昨今はグローバル化が進み、日本で働く外国籍の人が増えたこと、ビジネスチャンスや事業拡大のために海外に進出する企業が増加しています。ビジネスシーンでも言語さえ知っていればよいという時代ではなくなりました。言葉にプラスして、相手の背景にある歴史や文化、信条などさまざまな違いを理解し、お互いを尊重しあい、広い視野をもって交流できるマインドやスキルを持つグローバル人材が求められているのです。
2.異文化コミュニケーションの失敗例
➀ 失敗例その1「残業」
外国籍のメンバーを持つ日本人リーダーのSさん。そのSさんの元に先日行ったテストの結果が送られてきました。現在の時刻は終業時間間際ですが、明日の朝行われるサプライヤーとのミーティングに必要なデータなので、残業をして資料を作ってほしいとフランス人のFさんに依頼したら、しぶしぶ引き受けてくれたものの、露骨に嫌な顔をされてしまったのです。
●どうすればよかったのか
根本的に、海外では残業をするということは、その人のパフォーマンスが悪い、生産性が低いとみなされ、人事評価に大きく影響します。また、メンバーが残業することは、マネジメントに問題があると考えられるので、リーダーの力量や責任も問われることになります。
日本では働き方改革が進み、以前と比べたら残業は減ってきたと思いますが、「残業は美徳」「残業するのは仕事を頑張っている証拠」というような文化が根強く残っている会社もまだまだ存在しています。残業が多いことは会社に貢献しているとみなされ、評価されることもあります。
海外では「残業は仕事ができない人のやること」、日本では「残業をする人は頑張っている、評価されること」という、完全に真逆の考え方であり、大きなギャップがあります。働き方改革で残業の捉え方が変化してきていますが、日本の「残業は美徳」という考え方を押し付けることはやめましょう。
➁ 失敗例その2「食べ物」
日系メーカーに在籍し、カナダに駐在しているTさん。TさんのチームメンバーであるAさんが転職することになりました。そのためAさんの最終出社日にランチ会を企画。会社からほど近いレストランを予約しました。しかし、チームメンバーのKさんから、参加を断られてしまいます。その理由として、敬虔なイスラム教徒であるKさんは、アルコールを提供する店には入れないからでした。
●どうすればよかったのか
ビジネスの場でも、パーティーや会食、歓送迎会などメンバーと食を共にする機会がありますが、食文化の違いを理解しておかなければなりません。なぜなら、宗教上や個人の体質、嗜好上の理由から、全員が同じものを口にできるとは限らないからです。
例えば宗教的な観点から見た場合、イスラム教では豚肉とアルコールの摂取は禁止であり、イスラム法に基づいて処理された食材であるハラールフードを口にします。ヒンズー教では牛は禁忌であり、豚も避けられます。ユダヤ教でも、教えに基づきその規定に即していると認定を受けたコーシャーフードを食べます。食事イベントの際は、宗教上の理由やアレルギーを避けるため、参加メンバーに食べられるもの食べられないものの確認が必要です。
自分の文化圏以外の食を知ることは、とても新鮮で気持ちがワクワクするものです。海外でも寿司や刺身、ラーメンなど、日本の食文化が広く認知されるようになりました。日本食に興味をもつ人も増えており、「食」という共通の話題で、コミュニケーションが成立します。また、食文化はその土地の自然や風土、生活様式を色濃く反映したものです。食文化を知ることは異文化の理解につながるので、失敗を恐れずに食を通じた異文化コミュニケーションを楽しみましょう。
3.異文化間の違いを知る
日本はハイコンテクスト文化、欧米はローコンテクスト文化と言われています。ハイコンテクストとは、表情の変化や声のトーンなど言葉以外の表現から空気や行間を読み取るコミュニケーション方法であり、一方ローコンテクストは、はっきりと言葉にして伝えるコミュニケーション方法です。このように、国や地域によって文化は大きく異なります。ここでは、コミュニケーション方法や文化の違いについて、具体的な事例を用意しました。
➀ 日本語の持つ特徴
日本語には他言語にはない特徴があります。例えば、文字の種類の多さや書き言葉と話し言葉が違うこと、敬語の使い分けなどが挙げられます。その中でも、「日本語は主語が省略される」「yes/noがあいまい」は、日本語を勉強している人が頭を抱えるところではないでしょうか。
- 主語が省略される
日本語は主語を省略しても、動詞や形容詞から誰の話なのかを推測できます。そのため、推測に慣れない人には文脈が理解しづらくなります。
例)山田さんの異動について
A:「やっぱり異動するらしいよ」
B:「初耳です」
A:「来月だって。後任も決まっているみたいだよ」
これを省略せずに書くと
A:「やっぱり(山田さん)異動するらしいよ」
B:「(私は)初耳です」
A:「(山田さんは)来月付け(で異動)だって。(山田さんの)後任も決まっているみたいだよ」 - Yes/Noがあいまいであること
例えば、大丈夫という言葉はその文脈から肯定にも否定にもなることがあります。次の2つの文が同じ大丈夫という言葉を使っていますが、状況が違うことで意味が変わっています。
例)具合の悪い人に対して
A:「大丈夫ですか?」 B:「大丈夫です」
この場合、肯定の意味になります。例)飲食店で
A:「お水のお替りはいかがですか?」 B:「大丈夫です」
この場合、否定の意味になります。このように日本語は、はっきりと否定や肯定せず、あいまいに伝え、気持ちを相手にくみ取ってもらい、共調する言語であることを意識しましょう。
➁ 文化的な価値観の違いその1「自己主張の強さ」
日本人は自己主張が苦手と言われています。ビジネスや勉強の場で日本人以外の人と交流を持つと、周りは積極的に自分の意見を述べている中、下を向いてしまう日本人の姿が容易に想像できます。では、なぜ日本人は自己主張できないのでしょうか。それは、外国人と日本人では、コミュニケーションスタイルが違うからです。これをカルチャリアでは「孔子型」「ソクラテス型」コミュニケーションと呼んでいます。
孔子型とは、かの孔子が弟子に講釈するように、目上の人の話を目下の人が聞くスタイルであり、聞き手が話し手に意見や意義を申し立てることはほとんどありません。ソクラテス型とは、双方向で意見交換や対話をしながら物事を進めていきます。そのため、相手と活発に議論すること、積極的な発言は評価されます。すでにお分かりだと思いますが、日本は孔子型、欧米諸国はソクラテス型に当てはまります。
さらに、日本では謙虚であることが美徳とされてきました。人に迷惑をかけてはいけないと言われて育つので、失敗は許されない、だから失敗しない無難な方を選んでしまいます。そんな価値観もあってコミュニケーションも控えめであいまいなものにしていると、海外では自分の意見を持っていない人とみなされてしまうのです。
海外では言ったもの勝ちであり、自己主張しないと淘汰される社会なので、生き抜くためには自分を主張していかないといけません。しかし自分の価値観を変えることは難しいことであり、時間もかかります。前出にもありますが、日本語自体がYes/Noの境界があいまいな言語です。例えばお水のお替りを進められた時、「大丈夫です」ではなく、「いいえ必要ありません」というように、まずは直接的な言い回しを増やしていくことからはじめてみてはいかがでしょうか。
➂ 文化的な価値観の違いその2「時間の感覚」
日本は、時間に厳格な文化の国と言われています。例えば、電車が定刻よりほんの1~2分でも遅れれば、お詫びのアナウンスが流れてきます。幼いころから時間を守るように教育され、新入社員研修でも遅刻厳禁、5分前10分前行動を心掛けるなどと言われることでしょう。しかし、海外に行くとその場所によっては、日本と時間の流れが違うなと感じることはありませんか? その理由は、人の出身地によって時間に対する感覚が違うからなのです。
アメリカの文化人類学者エドワードホールは、時間の感覚を決めるのは文化と価値観だとして、国や地域、民族による時間感覚の差異を「ポリクロニック文化」「モノクロニック文化」と説明しています。
ポリクロニック文化は、マルチタスクで物事に柔軟に対応しつつも、時間をあまり重視せず、周囲との関係性に重きを置く傾向があります。これは南米、中東、一部の南欧地域に当てはまります。一方モノクロニック文化は、一点集中で物事に取り組む傾向があり、予定を立てて時間を管理するという文化です。これは日本やドイツ、北米などに当てはまり、時計時間に従い厳格に守る傾向が認められます。
このように、時間感覚の差異を理解することで、コミュニケーションも円滑になりますので、ぜひ心に留めておいてください。
4.異文化コミュニケーションにおける課題と解決策
➀ 言語学習の重要性
異文化コミュニケーションをより深めるためには、やはり言葉の問題をクリアすることが挙げられます。言語を習得するためには、多くの時間と根気を費やす必要があります。しかし、習得することによって、世界中の人とコミュニケーションをとれるようになるだけでなく、インターネットや書籍、メディア情報などにアクセスできるようになり、知識の幅を広げる手段となります。言語学習は個人の成長だけでなく、コミュニケーションや異文化理解による価値観の拡大や人生観の変化、仕事の選択肢が増えるなど、さまざまな恩恵をもたらすスキルであり、多様なグローバル社会で生きるためには非常に重要な要素です。
世界で利用者が多い言語として英語、中国語、スペイン語などが挙げられます。グローバルビジネスでは英語を利用する機会が多く、学習に励んでいる人も多いことでしょう。昨今はテキストによる勉強だけでなく、オンラインコースの受講やアプリなど、さまざまな学習リソースがあります。自分に適した学習方法を見つけてみてください。また、言語の理解と文化の理解は深く結びついています。言語学習と同時に、その言語を話す国の文化や歴史、習慣を知ることで、学習のモチベーションもあがることでしょう。
➁ 異文化の理解を深める
- 異文化を体験する
異文化コミュニケーションスキルを磨くには、実際に現地で生活してみることが一番の近道です。しかしそう簡単にできるものではありません。異文化を知る・気軽に体験できるものとして、異文化交流イベントや語学学習、インターネットコミュニティに参加するなどの方法があります。体験型の異文化理解では、対話を通じて共通の理解や共感を示すことが大切です。イベントなどは時間に限りがある場合もありますので、積極的に交流を深める努力をしてみてください。
また、個人でも企業でもeラーニングで異文化コミュニケーションを学ぶことができます。Udemyなどのeラーニングサービスや、会社によっては、社員育成のためにグローバル研修や異文化コミュニケーション研修を用意している場合もあります。
- 非言語的コミュニケーションの違いを知る
非言語的コミュニケーションとは、言語以外で行うコミュニケーションのことです。その例として、挨拶とジェスチャーの事例を挙げていきます。
挨拶
日本での挨拶といえば、お辞儀です。会釈、敬礼、最敬礼と相手や状況によって、お辞儀を使い分けて相手に敬意を表します。海外では握手やハグでの挨拶が主流です。また、親密度によってはハグをする際にお互いの頬をつける国や地域もあります。
ジェスチャー
お金を表すジェスチャーは日本と海外では異なります。日本では親指と人差し指の先をつけ、つけた部分を上にして丸を作るのに対し、海外では親指と人差し指で指の腹をこする仕草をします。また、手招きのジェスチャーも日本と海外では異なり、意味あいも変わってきます。日本では、「こちらにおいで」という意味でのジェスチャーは、手のひらを下にして指を上下に動かしますが、海外では手のひらを上にして指を上下に動かします。注意したいのは、日本のスタイルは海外では「あっちに行け」という意味になりますので、気をつけてください。
5.まとめ
いかがだったでしょうか。国際航空運送協会(IATA)によると、世界の航空旅客数は約45億人(2019年)とされ、2023年度も43.5億人を記録するだろうと予測されています。年間で約45億もの人間が世界を移動することにより、海外は身近なものであり、異文化コミュニケーションが求められる場は増える一方です。
また、日本の大きな課題の一つである少子高齢化は、経済成長や持続可能な社会の構築に関わる重要な問題です。縮小する国内から海外に活路を見出した日本企業は、グローバル市場での競争力を維持しなければなりません。このような世界的な潮流から、異文化コミュニケーションスキルを持った人材は、ますます重宝されます。
異文化コミュニケーションにおいて最も重要なことは、異なる価値観や相手の立場、感情を尊重することです。そして、異文化への理解をより深めるために間違いを恐れないこと、自身の文化を押し付けないこと、相手の出身地やその文化的背景からなるステレオタイプなものの見方をやめましょう。文化的な背景や相手との違いをポジティブな要素として捉えることで、お互いが学びと成長を実感できるでしょう。
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