なぜ日本企業の女性活用は一向に進まないのか?Part1:女性が活躍できない4つの原因

目次

女性活用、女性活躍という言葉が叫ばれるなか、企業は女性の活躍を促進するために、女性管理職の増加や従業員が育児休業や介護休業を取得しやすい環境の整備、ダイバーシティ教育と意識改革など、さまざまな取り組みを行っています。その一方で、女性活躍が進んでいるかと言ったら、実感できないという声も散見されます。政府が旗を振り、女性の活躍を推進しているにもかかわらず、なぜ日本では女性活躍が一向に進まないのでしょうか。ここでは、女性活躍・活用が進まない理由や女性活用が滞ることによって起こる弊害について、2回に分けて考えていきます。第1回は、女性が活躍できない4つの原因についてお送りします。

 

1.日本における女性活用の現状

日本において、女性活躍は遅々として進まないというのが実情です。スイスの非営利団体である世界経済フォーラムが発表した、2023年のジェンダー・ギャップ指数において、日本は146 国中125位という結果でした。このジェンダー・ギャップ指数は、経済、教育、保健、政治の分野別に各データをウェイト付けして算出されているものです。分野別にみると、経済参画123位、教育47位、健康59位、政治参画138位と、特に経済と政治分野は下から数えたほうが早いほどの低ランクという結果であり、日本における当該分野の女性活用は、世界と比較したらまだまだ遅れています。ではここで、具体的な事例を見ていきましょう。

①男女の賃金格差

厚生労働省による「2022年賃金構造基本統計調査」によると、男性を100としてみた男女間賃金格差は75.7%であり、一般労働者(短時間労働者を除く)の月額賃金(所定内給与額)は男性が34万2,000円(年齢44.5歳、勤続年数13.7年)、女性が25万8,900円(年齢42.3歳、勤続年数9.8年)でした。

日本では依然として年功序列制度が残っており、勤続年数や会社への貢献度が給料に大きく影響します。そのため、妊娠・出産などのライフイベントがきっかけで仕事内容が評価されなくなり賃金に影響があることや、仕事を辞めた場合、再就職できたとしても低い賃金での再スタートとなります。また、小さな子どもを抱えて正社員で再就職するというハードルが高いため、パートタイムやアルバイトなど、非正規で働かざるを得ない状況になると、賃金の格差を縮めるのは難しいものがあります。

②女性リーダーの現状

政治面とビジネス面に分けて、日本の女性リーダーの現状についてみてみましょう。

まず政治面において、有権者の51.7%が女性であるにも関わらず、日本の女性国会議員の比率は衆参両院で15.6%です。衆議院の女性議員比率を国際比較した場合、日本は190か国中165位という結果でした。衆参両院の女性議員比率を比較した場合でも、世界190か国中140位と極めて低い位置にいます。

では、ビジネス面ではどうでしょうか。OECDの「Social and Welfare Statistic 2022」によると、日本における役員に占める女性の割合は9.1%でした。フランス45.2%、ドイツ37.2%、アメリカ31.3%など、諸外国の女性役員の割合と比較すると非常に低い数値です。

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③根強く残るマミトラ問題

マミトラとは「マミートラック」の略語です。「マミートラック」(または「マミートラッキング」)とは、産休や育児休業を取得した後、女性が職場で昇進やキャリアの発展において障害を受けることを指す用語です。

例えば、産休や育休から復帰した女性が、子育てのために長時間の仕事や出張に参加する機会が限られるとして、妊娠・出産以前にやっていた同等の業務から外される、進行中のプロジェクトから外される、単純業務しか与えられないことを理由に、会社への貢献度が低いからと昇進の機会を失うのは、マミトラの典型的な事例です。

このように、マミトラ問題が横行している企業では、女性は産休・育休を経て職場に復帰した際に、子育てを理由に産休・育休前とは違う単純業務しか与えられない、その代わりに仕事と子育ての両立ができることとの“暗黙の引き換え”として、昇進・昇格は諦めざるを得なくなるのです。アメリカでも同様にMommy Trackと言われ、同じ問題としてあるものの、日本の場合はまだまだ「女性活用」の歴史も理解も浅く、その対応も初期レベルと言えるでしょう。

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④教育面

前出の世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数で、教育部門は47位と他分野に比べたら高いポイントでした。しかし2018年に報道された、某医科大学入試の女性差別問題のニュースは記憶に新しいのではないでしょうか。この報道は某医科大学が、女性合格者を3割以下に抑えるために、入学試験の得点を女性受験者のみ一律に減点して、人員の調整をしていたというものです。

憲法第14条「すべての国民が法の下に平等であって、政治的、経済的 又は社会的関係において性別により差別してはならない」という大原則があるにも関わらず、某医科大学の対応はお粗末なものでした。ちなみに、日本の女性医師の割合は、OECD諸国内で最下位です。

2.そもそも女性活用とはどのようなことなのか

少子高齢化により、企業は人手不足に陥り、経済成長が鈍化し、国力も低下することが懸念されています。労働力を確保するために女性の就労を推進していく打ち手として、「女性活躍推進法」が成立しました。

①女性活躍推進法とは

「女性活躍推進法」は、女性の社会進出を促進するための法律です。この法律は、性別にかかわらず平等な機会と待遇を実現し、女性が職場でその能力を最大限に発揮し、キャリアを追求しやすくすることを目的としています。女性活躍推進法では、いわゆる一般事業主に対して、女性の活躍に関する数値目標の設定や行動計画の策定・公表、課題分析などが求められます。

②なぜ女性活躍推進法が成立したのか

「少子高齢化に伴う人手不足を解消するため」が一番大きな理由です。政府は2016年4月に「働きたい女性が活躍できる労働環境の整備を企業に義務付けることで、女性が働きやすい社会を実現すること」を目的に、2025年度末までの時限立法として、女性活躍推進法を施行しました。常時雇用する労働者の数が101人以上の一般事業主は、以下の取り組みが義務化されています(常時雇用する労働者の数が100人以下の事業主は努力義務)。

  • 自社の女性の活躍に関する状況把握、課題分析
  • 一般事業主行動計画の策定、社内周知、公表
  • 一般事業主行動計画を策定した旨の届出
  • 取り組みの実施、効果の測定

③法律が施行されて変化はあったのか

2022年度の労働力調査の結果を見ると、女性(15歳〜64歳)の就業率は上昇傾向にあります。また、就業したくても働いていない女性は約161万人という結果でした。また、パートタイム、アルバイト、派遣といった非正規雇用労働者の割合については53.4%であり、女性活躍推進法の施行以降も、この数字に大きな変化はありません。

日本では長時間労働が蔓延しているため、特に子育て中の女性はワークライフバランスがとりにくいとされており、そのために35歳前後を底に就業率が減少します。併せて、長時間勤務ができないから正社員で働くことを諦め非正規雇用で働く、管理職などのポジションに付くことを諦める傾向にあるのです。事業者も女性活躍推進法に基づき、各種取り組みを行っていますが、社会的な構造や価値観の変革には時間がかかるため、現段階ではまだまだ課題が残っている状況です。今後、企業が優秀な女性を獲得するためには、どんなことをしていくべきなのでしょうか。

3.組織の中で女性が活躍できない4つの原因と解決策

なぜ、自組織の中で女性が活躍できないのか。企業が陥っている4つの問題を挙げていきます。原因がわかれば、解決策を講じることができます。

①思想(カルチャー)の問題

「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」「どうせ結婚、出産で辞めるのだから女性を活用する価値がない」「子どもの体調不良や学校行事で休んでばかりでは仕事に支障が出るので女性は採用したくない」というような、固定的な性別役割分担意識を現場のマネージャーが持っていることが原因です。解決策として、マネージャーの価値観を転換させることが挙げられます。そのためにマネージャーを教育し、新たなマネジメント方法の確立が必要です。

②制度(システム)の問題

長時間労働や出産後に復帰できないといった、制度面の問題が挙げられます。長時間労働が美徳とされる意識や生産性を無視した制度が、マタハラやマミトラを助長させます。解決策として、制度構造の見直しが挙げられます。各種規定の整備や職務に基づく人事制度、人員数、人員配置などのルール整備が必要です。

③活用(キャリア)の問題

自分のキャリアイメージが描けないというキャリアの問題が挙げられます。なぜなら、自身のキャリアの節目で、自分と等身大のモデルが身近にいないことが大きな理由です。解決策として、キャリアマネジメントの実践や職務に基づく人事制度、マネジメント方法を確立することで、キャリアステップの明確化が必要です。

④採用(ハイヤリング)の問題

女性の採用がうまく進まない原因として、女性活用や活躍が進まないことが挙げられます。解決策としては、採りたいと思う人材を具現化して訴求、勝てるポイントを明確にして、採用戦略を見直すことが必要です。

心に留めておきたいのは、思想(カルチャー)の問題が他3つに大きく影響することです。思想、制度、活用がクリアであれば、採用だけを見直せば結果は見えてきますが、思想がクリアにならないと、すべて機能しません。特に、経営陣が女性活用の難航に危機感を持っていたとしても、現場を回しているマネージャーの意識が変わらないことには、制度もキャリア構築も女性採用もうまくいきません。しかし、原因を正確に理解している企業は、残念ながらごく少数であることが現状です。

4. まとめ

日本の女性活躍は遅々として進んでいません。世界経済フォーラムによる2023年のジェンダー・ギャップ指数では、日本は146 国中125位と依然として低ランクに位置しています。

そもそも女性活用の流れは、少子高齢化による人手不足を解消すべく、女性の就労を推進していく目的で始まり、その打ち手として「女性活躍推進法」が成立しました。

しかし、企業は今だに「男は外で働き、女は家庭を守るべき」というステレオタイプな価値観が抜けない管理職の存在や、長時間労働の横行といった制度の問題、キャリアイメージが描けない、女性の採用ができないといった問題を抱えています。女性活躍ができない原因に気付くことができれば、対処することができますが、原因を正確に理解している企業は少ないため、女性活用が進まない。これが日本の現状なのです。

企業のトップが女性活躍が進まないことに危機感をもっていても、現場を取り仕切るマネージャーの意識が変わらないことには、制度もキャリア構築も女性採用もうまくいくはずがありません。まずはマネージャーの本音を知ることが必要です。

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