ジョブディスクリプション(職務記述書)とは?!導入メリットや作り方を解説!

日本におけるジョブ型雇用も落ち着き始め、ジョブディスクリプションにも注目が集まっています。ジョブディスクリプションは、組織の効率化から従業員のキャリア開発、リーダーシップの向上まで幅広い領域に影響を及ぼします。その重要性を理解し、適切に活用することで、組織の成長と人材育成を促進することができます。今回は、組織の成長と人材育成に欠かせない重要なツールである「ジョブディスクリプション」について掘り下げていきます。

目次

1.ジョブディスクリプションの概要

1-1.ジョブディスクリプションとは?

職務記述書と和訳されるジョブディスクリプション。英文表記ではJob Descriptionであり、JDと省略されることもあります。ジョブディスクリプションは、組織や企業における個々の役割や職務内容を明確に定義し、従業員や求職者に対して職務情報を提供する文書のことです。ジョブディスクリプションには特定のポジションや役割の概要、目的、主な業務内容、必要なスキルや経験、報告先や関連部署、業務の範囲や責任、評価基準、今後のキャリアパスなどを提示します。

ジョブディスクリプションは採用や配置の際にも重要な役割を果たします。求職者に対して、入社後にどのような業務内容や責任があるのかを明確に伝えることで、適切な人材を採用し、適材適所の配置を行うことができます。さらに、従業員の評価やキャリアパスの構築にもジョブディスクリプションは活用されます。従業員が自身の役割や業務内容を明確に把握していれば、それに基づいた目標設定やスキルアップの計画を立てることが可能だからです。

このように、ジョブディスクリプションは組織内の効率化や従業員の育成だけでなく、組織全体の運営や成長戦略にも大きな影響を与える重要なツールです。

1-2.ジョブディスクリプションの役割

ジョブディスクリプションは組織内での業務の明確化、コミュニケーションの円滑化、人材管理の効率化など、組織全体の運営において重要な役割を果たします。組織が持続的な成長を遂げるためには、適切なジョブディスクリプションの作成と活用が不可欠です。

ジョブディスクリプションの役割1
組織内での業務の明確化と効率的な運営を支援すること

ジョブディスクリプションは各従業員やポジションの役割や責任を明確に定義することで、組織内での業務の透明性を高めます。これにより、従業員が自身の役割や期待される業務内容を理解しやすくなり、業務の重複や抜け漏れを防ぎます。また、各従業員が自身の役割に集中し、適切な業務遂行を行うことができます。

ジョブディスクリプションの役割2

円滑なコミュニケーション
ジョブディスクリプションは組織内でのコミュニケーションを円滑にします。明確な役割定義に基づいて、部門間やチーム内での業務の連携や情報共有がスムーズに行われることにより、協働の促進や問題解決の迅速化が実現されます。

ジョブディスクリプションの役割3

適材適所への配置
ジョブディスクリプションは組織の人材管理にも大きな影響を与えます。採用や配置の際には、候補者に対して役割や業務内容を明確に伝えることで、適切な人材を選択し、適材適所の配置を行うことができます。また、従業員の評価やキャリアパスの構築にもジョブディスクリプションが活用されます。従業員が自身の役割や業務内容を明確に把握していれば、目標設定やスキルアップの計画を立てることができるため、組織の成長と従業員のキャリア発展を促進します。

2.ジョブディスクリプションが浸透する背景

ジョブディスクリプションが注目される要因の一つに、ジョブ型雇用の拡大があります。

2-1.ジョブ型とメンバーシップ型の違い

ジョブ型とメンバーシップ型は、組織内の労働力の配置や管理における二つの異なるアプローチを指します。

●ジョブ型とは

ジョブ型人事とは、日本企業において従来の年功序列や終身雇用を超えた新しい人事管理のアプローチです。このシステムでは、「ジョブ」すなわち一つひとつの職務が明確に定義され、個々の従業員はその職務に対して責任を持ちます。企業と従業員の間の関係は、「ジョブを通じた会社と個人の対等な取引」という根本的な理念に基づいて構築されます。この取引において、個人は自身のスキルと努力に応じて適切な報酬を受け、企業はその能力を正しく評価し、最適な位置に配置することで双方の価値を最大限に引き出します。ジョブ型人事は、透明性と公平性を重視し、個々の成長と企業の発展を同時に促す革新的な管理手法です。

しかし、ジョブ型雇用にはデメリットがあります。終身雇用の保証がなくなるため、従業員の不安定性が増し、職場での不安やストレスが増加する可能性があります。また、個々の職務に焦点を当てるため、チームワークや組織全体の一体感が損なわれることがあります。加えて、長期的な成長や従業員の育成よりも、短期的な成果が重視される傾向にあります。

●メンバーシップ型とは

一方、メンバーシップ型は、従業員が特定のチームやプロジェクトに割り当てられ、そのチームやプロジェクトのメンバーとして活動する組織の形態です。メンバーシップ型では、各従業員が複数の役割や業務を担当し、柔軟にチームやプロジェクトに参加します。このアプローチでは、従業員の多様なスキルや経験を活かして、チームワークや協力を重視し、柔軟な業務遂行を実現します。

このように、ジョブ型とメンバーシップ型の違いは、従業員の役割の定義と業務遂行の方法にあります。ジョブ型では、従業員が特定の役割に専念し、その役割に基づいて業務を遂行します。一方、メンバーシップ型では、従業員が柔軟にチームやプロジェクトに参加し、複数の役割や業務を担当します。組織がどちらのアプローチを採用するかは、組織の性質や業種、目標に応じて異なりますが、効率的な業務遂行とチームワークの促進を目指す際には、両方のアプローチを組み合わせることもあります。

2-2.日本企業におけるジョブ型雇用の適合性

日本において、従来のメンバーシップ型雇用は効果的であると考えられてきました。しかし、現代の急速な変化の中で、その適合性に疑問符がつき始めています。日本の企業文化は、長年にわたる会社への忠誠心を重視し、対価として従業員には年功に応じた役割や業務、安定した雇用と賃金を提供してきました。しかし、最近では、グローバル化やテクノロジーの進化により、メンバーシップ型雇用が適切であるかどうかが再評価されています。

特に、若い世代の間での働き方の変化が顕著です。彼らは従来の価値観にとらわれることなく、柔軟性や自己成長の機会を重視します。このような状況下で、メンバーシップ型雇用は必ずしも最適な選択肢ではありません。むしろ、プロジェクトベースの仕事やフリーランス、副業、複業などを通じて、自己実現やスキルの多様化を追求する傾向が強まっています。また、技術革新の加速により、多くの職種が新たなスキルや知識を要求されるようになっています。このような状況では、メンバーシップ型雇用に固執せず、スキルや経験を柔軟に活かせるジョブ型雇用も必要なのです。

日本企業におけるジョブ型雇用の適合性は、業務の透明性を重視する場面では有益です。一方で、急速な環境変化や競争激化に対応する必要に迫られている日本企業は、状況に応じてメンバーシップ型の人材配置やチームワークが求められることもあります。そのため、ジョブ型雇用だけでなく、メンバーシップ型の要素を組み合わせることで、組織の柔軟性や適応力を高めることが重要となります。組織がこれらの要素をバランスよく組み合わせることで、持続的な成長と競争力の強化が実現されるのです。

3.ジョブディスクリプションのメリット・デメリット

3-1.ジョブディスクリプションのメリット

ジョブディスクリプションを制作することには、次のようなメリットがあります。

●明確な役割と責任
ジョブディスクリプションは、従業員が何をすべきか、どのような役割を果たすべきかを明確にします。これにより、従業員は自分の仕事の目標と期待を理解し、それに基づいて行動することができます。また、従業員は自分の仕事の範囲を理解し、他の部門やチームとの協力を円滑に進めることができます。

●効率的な採用
ジョブディスクリプションは、求職者が自分が応募する職種が自分のスキルや経験、キャリア目標に適しているかどうかを判断するのに役立ちます。これにより、求職者が企業の要件とを照らし合わせるのに役立ち、企業はマッチする候補者を効率的に採用することができます。

●能力に基づく公平な評価体系
従業員がその能力と成果に基づいて評価され、報酬が決定されるため、モチベーションの向上と能力の最大化が期待されます。

●専門性の強化
ジョブディスクリプションは、従業員のスキルギャップを特定し、適切なトレーニングと開発プログラムの提供に役立ちます。これにより、企業は従業員のスキルを強化し、組織の生産性を向上させることができます。

これらのメリットから分かるように、ジョブディスクリプションは組織の効率性と生産性を向上させる重要なツールです。明確な役割と責任を設定し、従業員が成功するための道筋を示すことで、組織全体のパフォーマンスを向上させます。

3-2.ジョブディスクリプションのデメリット

ジョブディスクリプションを制作することによる多くのメリットの一方で、次のようなデメリットも存在します。

●時間とリソースの消費
ジョブディスクリプションの制作は、時間とリソースを大量に消費します。新規で作成するだけでなく、ビジネス環境や技術の進歩により、役割が変化する場合、ジョブディスクリプションの内容更新が必要となります。特に、大規模な組織になると、すべての役職に対する詳細なジョブディスクリプションを作成することは大きな負担になります。

●柔軟性の欠如

ジョブディスクリプションの書き方が厳格すぎると、従業員の柔軟性が制限され、新たなチャレンジや転機に対応する能力が低下する可能性があります。

●過度の期待

ジョブディスクリプションが従業員に過度の期待を抱かせる可能性があります。これは、従業員が自分の役割を過大評価してしまい、結果としてパフォーマンスに影響を及ぼします。

●コミュニケーションの障壁

ジョブディスクリプションが不明確または誤解を招く表現が含まれている場合、従業員に混乱をもたらし、従業員と管理者間のコミュニケーションの障壁を生む可能性があります。このことはパフォーマンスの低下につながりかねません。

ジョブディスクリプションの制作は、組織の目標達成に向けた重要なステップであると言えます。それゆえ、これらのデメリットを考慮しつつ、デメリットを最小限に抑えつつ、ジョブディスクリプションのメリットを最大限に活用することが求められます。

4.効果的なジョブディスクリプションの作り方

4-1.明確な役割定義

効果的なジョブディスクリプションを作成するためには、明確な役割定義が不可欠です。どのように役割定義をしたらよいのでしょうか。

STEP1:業務の棚卸 役割と目的を明確に定義する
どのような業務が含まれるのか、その役割が組織や部門の目標達成にどのように貢献するのかを明確に示す必要があります。部門全体で棚卸をして、バランスを図り、偏りがあれば再配分をする。

STEP2:具体的な業務内容や責任を明確に記述する
業務の範囲や頻度、優先順位などを明確に定義し、従業員が業務を遂行する際の具体的な指針となるようにします。

STEP3:必要なスキルや経験を示す
役割に必要な技術や知識、経験年数などを明確に定義し、社員や中途採用の求職者が自身の適性を判断する際の参考になるようにします。

STEP4:役割の関連部門や報告先、連携する他の従業員を記載する
組織内でのコミュニケーションや連携を円滑にするために、関係各所や役割の関係性を明確に理解できるようにすることが重要です。

STEP5:柔軟性を持たせる
役割定義には明確な定義付けが前提ですが、業務の変化や組織の成長に対応するために、柔軟性を持たせる必要があります。

以上の要素を踏まえて、効果的なジョブディスクリプションを作成することで、組織内での業務の透明性や効率性を高め、適切な人材の採用や配置、従業員の育成を促進することが可能となります。

4-2.適切なキャリアパス設計

ジョブディスクリプションは、適切なキャリアパス設計において重要な役割を果たします。ご存じの通り、ジョブディスクリプションは各ポジションや役割の業務内容や責任を明確に定義します。これは、従業員が自身の現在の役割で必要なスキルや経験を理解し、将来のキャリアパスを構築するための基盤となります。

ジョブディスクリプションには通常、役割の要件や期待される成果が明示されています。目標を達成するために従業員はそれを参考にして自身のスキルや経験を磨くことや資格取得などの計画を立てることができます。

また、昇進や昇格の基準や可能性についてもジョブディスクリプションに記載されていることがあり、従業員が将来のキャリアパスを見据える上での指針となります。ジョブディスクリプションは、従業員が組織内でのキャリアパスを明確に理解し、目標を達成するための行動計画を立てる上で、重要な情報源となります。

4-3.評価基準の明確化

ジョブディスクリプションを導入することで、従業員の業務成果や貢献度を客観的に明確化できます。ジョブディスクリプションには、各役割やポジションに関連する業務内容や責任が明確に記載されているため、これを基にして従業員の業績や成果を評価することができます。あらかじめ業務の範囲や期待される成果が提示されているため、評価者と従業員は具体的な業務目標や基準に基づいて協議することができます。

また、ジョブディスクリプションには通常、役割の要件や期待されるスキル、責任範囲に関する情報が含まれています。従業員の業務遂行能力や能力の発展状況を評価する際には、これらの要件やスキルを基準にして評価を行うことが可能です。さらに、ジョブディスクリプションには役割の成長や昇進に関する情報も含まれており、従業員が目指すべき方向性やキャリアパスに関する理解を深めることができます。

評価基準の明確化は、従業員と評価者の間でのコミュニケーションを円滑にし、公正な評価を行う上でも重要です。従業員は自身の業績や成果がどのように評価されるのかを理解し、目標達成に向けて努力を重ねることができます。一方、評価者も客観的な基準に基づいて評価を行うことができ、従業員との関係をより建設的に保つことができます。

5.ジョブディスクリプションの事例

では、実際にジョブディスクリプションの一例をみてみましょう。

●職種:エンジニア(エントリーレベル)
●給与:年収400-500万円
●雇用形態:正社員
●勤務エリア:東京都港区(本社)
●ワークスタイル:ハイブリット勤務(週3日出勤)

●職務概要
エントリーレベルのエンジニアとして、ウェブまたはネイティブアプリケーションの開発に従事します。指示に基づいてプログラミング言語を使用し、新しい機能の開発や既存機能の改善に取り組みます。チームと協力してプロジェクトの目標達成に貢献し、クライアントとのコミュニケーションを行い、自身のスキルを継続的に開発します。

●職務内容
【一次的職務(70%)】
ウェブもしくはネイティブアプリケーションの開発に関するタスクを実行する。
コードの作成、デバッグ、テスト、およびドキュメントの作成を行う。
チームとの協力を通じて、プロジェクトのスケジュールや目標を達成する。

【二次的職務(20%)】
クライアントとのコミュニケーションを円滑に行い、要件や進捗状況を共有する。
自身のスキル開発に努め、新しい技術やツールの学習を積極的に行う。

【その他(10%)】
チームの成功に積極的に貢献する
必要に応じてメンバーをサポート・支援する

●求めるスキル
【必須条件】
大学卒業以上(関連するコンピューターサイエンスまたは関連する専攻が望ましい)
ウェブもしくはネイティブアプリケーションの開発経験(1~2年程度)
プログラミング言語の理解と実務経験(例: Java、Python、JavaScriptなど)
タスクの優先順位を理解し、効率的に作業を進める能力
チームとのコミュニケーション能力
クライアントとのコミュニケーション能力

【歓迎条件】
英語力(日常会話レベル)

6.まとめ

ジョブディスクリプションは、組織内での役割や業務内容を明確に定義し、従業員が自身の責任と期待される業務を理解するのに役立つ重要なツールです。ジョブディスクリプションには、各ポジションや役割に関連する業務内容や責任が具体的に記載されており、これを基にして従業員が業務遂行に集中し、組織の目標達成に貢献することができます。

ある企業では、まずは役割の明確な「営業部」「広報部」などから導入したり、「部長職以上」から作成して導入しています。事業環境の変動に伴い、事業戦略に基づく各部門の役割も大幅に変化しており、既存の職務内容が時代遅れとなっていました。この状況を受け、「部長職以上」を対象にジョブディスクリプションの導入を優先的に行う計画は成功しています。国際的な基準を参考にしつつ、外部労働市場を考慮し、独自の企業特性を融合させることで、効率的にジョブディスクリプションの策定を進めています。全社的な導入を一気に行うのではなく、可能な部署からジョブディスクリプションへの理解を深め、全体の導入への基盤を段階的に築いていく方針です。このように段階的に進めるアプローチは、将来の日本の外部労働市場の発展速度を考慮した方法です。

ジョブディスクリプションの効果的な活用は、組織の成長戦略と人材育成を加速させることができます。明確な役割定義に基づいて、従業員が適切な業務に集中し、目標を達成することで組織の効率性が向上し、成果が加速します。さらに、ジョブディスクリプションを通じて、従業員のスキルや経験を育成し、組織全体の人材力を高めることが可能となります。組織はジョブディスクリプションを有効に活用し、持続的な成長と競争力の強化を図ることが重要です。

ジョブディスクリプション作成でお困りの方、人事制度を見直したい方はカルチャリアにご相談ください。

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